女神
お昼休みが終わり、教室に戻る途中で一葉は目を見張るばかりの美しい女神に対面する。
キラキラと光り輝く金色のウェーブな髪、青く澄んだ瞳はぱっちりとしており、色白で儚い。
これこそ一葉の求めていた理想。
「そこの女神〜、お名前を聞いても良いかなぁ〜?」
女神こと、海向は環と昂輝の3人で学食から戻って来た所であった。
一葉にはあとの2人は全くと言ってよい程に映っておらず、一直線に海向へと歩み寄ったのだ。
「チッ!お前誰や、女神違うわ!」
すかさず海向が半ギレ口調で蹴散らせば、気の強さなんて気にならない程に声も美しかった。
「こ〜んな可愛い子に気づけないなんて、俺もまだまだだなぁ〜」
にこにこデレデレな一葉に対し、心底鬱陶しいとばかりに呆れたような冷たい視線を向ける。
今日で何度目だろうか。
こうやってナンパされるのは。
「てめぇ、明瀬!ふざけんなよ!」
海向と一葉の前にぬっと現れたのは昂輝だった。
もう最初からキレており、戦闘モードである。
そこに環が苦笑いして、まぁまぁと宥める。
「あれ?俺の名前知ってるの〜?何か照れるなぁ〜。けどごめんねぇ〜?厳ついヤンキーくんと平凡くんは対象外なんだ〜、そこの女神様〜、君の名前、教えてぇ〜」
その一言に昂輝がブチ切れである。
「てんめぇ…いい加減にしろよ!!昨日の激臭といい、鼻につくし、カンに障るんだよ!!今朝会っただろうが!!同じクラスなんだよ!!しかも対象外って何だ!?てめぇの対象になりたかねぇが、外されんのも嫌なんだよ!!」
胸ぐらを掴み、怒鳴りつける。
びりりっと響き渡る声に、隣にいた環が目をぎゅっと閉じた。
海向がすぐさま近寄り、環を背後に隠すように立ちはだかる。
「海向…」
不安そうに見つめれば、にこっと優しい笑顔で環に振り返る。
それを見ていたギャラリーが海向に惚れたのは間違いない。
「可愛い〜」
海向が環に向ける笑顔にメロメロになった一葉は、昂輝などすり抜けて目の前に現れる。
その速さと言ったら、驚く程であり、昂輝はもちろん、海向ですらも驚いていた。
「心も綺麗なんだねぇ〜」
感心するように海向の両手を掴み、優しく握りしめた。
「………は?」
油断していただけに海向は唖然。
昂輝は青筋を立てて、一葉を睨みつけていた。
「こんなに可愛いのに、平凡くんのナイト様気取りなのかなぁ〜?そんな所も素敵だねぇ〜」
にこにこと褒めているつもりなのだろうが、それは海向からしたらただの地雷である。
環は顔を真っ青にして、首をぶんぶんと横に降った。
一葉にそれはダメって伝えてるつもりなのだろうが、空気の読めない彼に全く届かない。
「ん〜?平凡くん、俺に惚れちゃったのかなぁ〜?首振って、何してるのぉ〜?でもごめんねぇ〜。君は俺の好みじゃないんだ〜」
環がぴしりと固まる。
海向の後ろにいる自分に、未だ話しかけ続けるのは頂けない。
更に地雷を踏んでしまったのだろう。
海向がぶるぶると震えているではないか。
心配のあまり、海向のお腹に腕を回し、背中に抱きつくようにして体を張って止めに入った。
こうでもしないと海向を静止させる事が出来ないからだ。
環は知っていた。
彼が自分には甘い事を。
「っ…環!?」
海向が顔を真っ赤にし、更に震えるものだから、激怒していると勘違いし、ぴたりと強く抱きついた。
ぎゅっと音がしそうな程に体を密着させ、肩に頭を乗せる。
そしてすりすりと額を擦り付け、ちらっと海向に視線を向けた。
すると互いの目が合い、海向が真っ赤な顔をし、驚いているので意表をつけた事に安堵する。
(良かった…。この顔は怒ってない)
昂輝も目が点になりながら、環の様子を見守っている。
ずきりと心臓が悲鳴をあげた。
海向の顔が環に惚れてますと言っているのだ。
好きな子に抱きつかれ、頬は緩み、目尻は下がり、とても嬉しそうにする姿に昂輝は思う。
これが自分に向けられたものなら、どんなに嬉しかっただろうか。
だが、この顔を独り占めしている環が物凄く羨ましかった。
それぞれの想いが交差し、矢印が様々な方向へと向いていく。
2025.04.12
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