tori


本人達の無自覚ないちゃいちゃ


「海向…格好良いよ」

環は心配そうに、顔を覗き込む。
少しだけ環の方が身長が高いが、ほぼ同じ背丈な為、自然と耳元で囁くような体勢になる。
一葉に可愛いと言われた言葉を払拭するよう海向がどれだけ男前かを語っていく。

「あの人の言葉なんか、気にしないで?海向は見た目も中身も凄く男らしくて、俺の憧れなんだ。俺が知る中で海向が1番格好良くて好きだよ。今も俺の事を守ってくれて、ありがとう」

(好きって何や…!そない俺のが好きや!何でこない可愛ぇのや!耳元でその声は不意打ちやろぉ…!!しかも甘えるように縋ってきて、めっちゃえぇ!!ホンマ、可愛ぇ!!ヤバー…ドキドキ止まらんわ!!無自覚、こっわー…!)

そのとどめの一言で、海向は顔を手の平で覆って、言葉を失う。
環の温もりと耳で囁くような甘い声。
今すぐにでも抱き締め、壁際に追い詰め、見せつけるようにキスしたくて堪らなくなる。
自分の兄が男に夢中になったと聞いた時は心底驚いたし、毒されたと呆れたりもした。
けど、自分がいざ同じ立場になってしまえば、こんなん惚れない筈がない。
もう自覚してしまえば早かった。
自分は環を恋愛対象として好いている。
守ってやりたいとも思うし、泣くのは自分の腕の中でだけにしてやりたい。
環にはその気がないのは充分承知しているが、それにしてもこの可愛い生き物は何だ。
俺を萌え死にさせたいのかと、体がぶるぶると震えたのだった。

「ねぇねぇ〜、ヤンキーく〜ん」
「…んだよ」

一葉がきょとんとしながら小首を傾げて、昂輝に顔だけ向ける。

「もしかして、もしかしなくても女神様は平凡くんにお熱〜?」
「もしかしなくてもこれ見りゃわかんだろが。そうだぜ…だからお前如きがつけ入るスキねぇんだわ。海向は環のもんだよ…」
「そっか〜」

軽い返事が返って来る辺り、本気ではなかったんだろう。
大方、海向の見た目で一目惚れした類なのかもしれない。

「だから、てめぇは諦めろ」

ずきりと胸が締め付けられながらも自分で言っていて、すとんと落ちる。
そうだ、海向は環のものであり、自分につけ入るスキなどありゃしないのだ。
どんなに背中を追っても振り向く事はない。
わかっていたじゃないか。
諦めるしかない、と。
まるで己に言い聞かせるような発言に目の前が暗くなる。
だけど、そんな事を言っていられない。
こんな下半身ゆるゆる男に海向を奪われてたまるものか。
環になら、百歩譲ってもいい。
他の奴に渡すくらいなら、自分が全力で奪いに行く。
環が相手なら、それは別だが。

「二度と関わってくんな…」

しっしっと手で一葉を追い払う。

「環、ありがとさん…、めっちゃ嬉しいわ」

くるっと海向が環へと振り返り、両頬に手を添える。

「うん、良かった。海向が格好良いのはみんな知ってるからさ。でも負けないよ、俺が1番海向が格好良い事を知ってるんだからね。そこ、忘れないでね」

添えられた手に擦り寄るように微笑み、海向の肩に手を置いた。
ちょっとだけ勝ち誇った顔がまた可愛いのだ。

「っ…!」

もう顔面崩壊だろう。
何でこんなに狡いのか。
友達として接しようとすれば、そうやって気をもたせるような言動をする。
海向が耐えきれないとばかりに環を抱き締めた。
ぎゅっと音が鳴る程強く。

「海向?まだダメ?」

イライラするかと聞いているのだが、甘えてるように聞こえるのは惚れた弱みだろうか。
あぁ、兄の気持ちが良くわかる。
これは早く喰らいたい。
横から掻っ攫われる前に骨の髄までむしゃぶりつきたくなる。
興奮して堪らない。
ほんの少し、味見くらいしてもバチは当たらないだろうか。

「アカン、もう少しや。このままでおって…」

環の匂いをくんくん嗅いで、バレないように感触を確かめる。
力を込めたら折れてしまいそうに細い腰。
触れた頬の柔らかさときめ細やかさ。
抱き締める度に香る石鹸と環の匂い。
脊髄に響くような甘い声。
そのどれもが海向を凌駕していく。
喉が乾き、喉元に牙を立て、舐め尽くしたい。
腰から少し手をずらし、お尻付近に手を置く。
そして感触を愉しむように擦り擦りと触れたのだった。
びくんと弾む環。
その反応すら可愛くて堪らない。

「っ、もう…ダメ!」

環は顔を真っ赤にして、海向に体重かけて体を捻る。
海向の悪ふざけが過ぎると注意するも一向に離してくれそうもなく、環は渋々諦める事にした。

「ん?何がや?」

気づいてないとばかりに、海向が再び環を強く抱き締める。
すーっと息を吸い込み、環の匂いを堪能した。
このいちゃいちゃぶりに一葉の戦意が喪失したのは言うまでもない。


2025.04.13

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