記憶操作
胸元に両手を起き、引き離そうともがくが礼貴の筋肉質な体はびくともしなかった。
それ所か、隙間を埋めるかのように密着し、強く抱き締められたまま、口付けが降ってくる。
ちゅっちゅっと唇を吸われ、顔の角度を変えて貪られた。
男にしては肉厚の唇をしている礼貴の柔らかさに、環は海向と全く違うと驚きを隠せない。
海向の唇は薄く、そしてしっとりしていたが、礼貴のは分厚く、カサついていた。
「っ…はっ…」
ふるふると震えが止まらず、環が目から生理的な涙を浮かべれば礼貴が目を大きく見開き、素早く離れた。
ぽろぽろと瞳から涙を流し、乱れた呼吸を必死に整える姿があまりにも儚く美しい。
「…佐野、初めてだったのに…すまない…」
急に礼貴の雰囲気が変わり、何が初めてなのかわからないまま、耳だけを傾ける。
「…舞い上がってしまったっ…!佐野のファーストキスをもらえた事に浮かれて…こんな…」
何かと葛藤しているのか、顔を抑えながらも目をギラギラつかせて指の隙間から環をガン見している。
その鋭さと言ったら、雄そのものでびくりと環の体が強張った。
「っ…、すまない!こんながっつくつもりじゃなかったんだ!許して欲しい!佐野から告白されて、俺も佐野の事を好きだと告げて、両想いになったからって…」
(………え?……勅使河原くんは何を言っているの?俺がいつ告白した?ファーストキスは海向とだけど、あれ…?)
話が見えて来なくて、環がかちんと固まった。
これはいよいよヤバイかもしれない。
勅使河原礼貴と言う男はもしかしたら、都合の良いように記憶を作りあげる病気なのかもしれないと。
「佐野が俺になら何をされても良いと言ってけれたが、俺は自分が獣にしか見えないんだ!」
(えええぇ…!!!?言ってないよ!!ねぇ、何されても良いって言ってない!!そもそもそんな長い話、ここに来てからしてないからね!!?)
礼貴の暴走にどこからつっこめば良いのかわからない。
ヤバい、こいつは危険だ。
このままでは本当に全部奪われてしまうかもしれない。
こんな筋肉の前で、自分など非力だろう。
どんなに抵抗しようが、礼貴の中では同意として事が進められるに決まっている。
少しだけ話が通じるんじゃないかと期待していたが、ここまでかみ合わないなんて初めての経験だった。
心の病気なんじゃないだろうか。
そう思わせる程に、妄想が激しいのだ。
「そこまで言ってくれるなら、本当に良いのか?…っ、…佐野の処女…俺がもらっていいんだな?」
真剣な目で見つめられ、びりびりっと腰に響く程の良い声に、環は終わったと感じた。
自分は何も発していないのに、勝手に進められる恋愛ストーリー。
礼貴の脳内がどうなってるのか、怖くて仕方なかった。
まるで離さないとばかりに強い力で抱き締められる。
ぎゅうっと音がする程のそれに、環の顔が歪んだ。
「夢みたいだ…佐野が俺の恋人になってくれるなんて…っ!あぁ…何て幸せなんだろう…。一生大切にする…結婚しよう!」
はーはーっと息を荒くし、腕を解かれる。
互いの顔を見合わせるように離れれば、熱っぽい視線にぶつかった。
「佐野…」
礼貴は真剣な顔をし、ごくんと生唾を飲み込む。
環は嫌々するように頭を少しだけ振り、自分は恋人じゃないと言葉に出来ない分、目で懇願した。
かっと顔を真っ赤にし、礼貴の瞳が揺れ動く。
「っ…俺も好きだ!」
(違ぁぁぁぁう!!!)
何を勘違いしたのだろうか。
礼貴が環の後頭部をがしりと掴むと最初からむしゃぶりつくようなキスをしたのだった。
「んっ!?…っ…んん!」
環は突然の事に逃げるスキも与えて貰えず、肉厚の舌がにゅるりと唇を割り、口腔内に入ってくるのを阻止する事すら許されない程の激しさについていけない。
ふー、ふーっと鼻息荒くし、環の舌に自らの舌を絡ませ、ねっちょりと深く貪っていく。
呼吸すら奪うような激しい口付けに、環の意識が朦朧としていく。
自分よりも遥かにガタイが良い大男に、力の限り抱き締められ、唇を貪られれば物理的な意味で身動きひとつとれないだろう。
粘着音が室内に響き渡り、抵抗する力すら残っていなかった。
「ふ…はっ、ぁ…」
環から洩れる吐息に、礼貴の下半身がずくりと疼く。
ぐっと股間を強く押し付ければ、ぴくんと腕の中の存在が反応する。
それが愛しくて、礼貴が更に興奮していく。
「ん…っ…んんっ…」
ほろほろと環から涙が流れ、頭がぼーっとしてくる。
含みきれない唾液が顎を伝い落ち、やっと唇が開放された。
「は、ぁ…っ…ん…」
互いの舌から銀色の糸が伸び、ぷつりと途中で途切れる。
「っ…」
環の細められた瞳から溢れ落ちる涙。
照明の灯りによりキラキラと輝く瞳の美しさと艶っぽさ。
目尻が赤く染まり、半開きの唇が礼貴の唾液によりてらてらと光っていた。
その隙間から見える赤く熟れた舌先。
礼貴はその全てに目を奪われたのだった。
2025.04.17
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