一目惚れ
礼貴はかつてない程に魅了されていた。
初めて舞台の上に立つ環を目にした瞬間、心奪われたのだ。
あの流し目を見て恋に落ち、歌声を聴き己の欲望を知った。
自分の中でこれ程激しい感情がある事を今まで知らなかったのだ。
昔から歌を歌う事が好きでそれと同時に剣道にのめり込み、青春全てをこの2つに捧げた為、恋などした事がなく、きっと訪れる事のない感情だと思っていた。
環の歌を聴くまでは。
あの瞬間に、全てが変わった。
初めて歌と剣道以外に夢中になったのだ。
ネットで調べたら、一目惚れの4文字。
更には同じクラスになり、惹かれ合うかのように何度も目が合った。
これはもう運命かもしれない。
いや、かもしれないじゃなく、運命なのだ。
そう思ったら、もう止まらなかった。
好きで好きで堪らなくて、授業中や休み時間に何度も盗み見をする度に目が合う。
環も自分と同じ気持ちなのだろうと心弾んだ。
教室で声をかけてくれたのに、あまりにも嬉しくて思わず逃げてしまった事は謝ろう。
それで怒って、違う男の元へ行ってしまったんだ。
全ては己を嫉妬させる為に、何て可愛い奴なんだ。
そんな事しなくても環しか見えないのに。
ほんの少しの浮気には目を瞑ろう。
キスは許せなかったが、無理矢理だったなら仕方ない。
環は他の男を無意識に誑かしてしまう程に魅力的人間なのだ。
今、こうして自分の腕の中にいてくれれば、何をされても怒りはしない。
「俺達は運命だ…」
礼貴が再び環に口付けしようとすれば、バタバタと複数の足音がする。
くたりと自分に身を預け、甘えるような姿に愛しさが増す。
「佐野…少し、待っててくれ…」
ちゅっと触れるだけの口付けをする。
ゆっくりと閉じる環の瞳に映っていたのは自分だけ。
そう思うと興奮して堪らなかった。
「ん…」
柔らかな唇の感触に、礼貴は一度だけのつもりが離れがたくなり、何度も狂ったかのように唇を重ね合わせた。
この味を知ってしまったら、もう止まらない。
「はっ…佐野…」
「っ…ん」
環の吐息に胸が熱くなる。
もっと口付けたくて、環ごとベッドに倒れ込む。
ちゅっ、ちゅっと何度も唇に吸い付き、その度にぴくりと反応する姿に胸が高鳴った。
触れ合う唇の感触が熱く、己の中心に熱が集まるのがわかる。
「佐野…っ…、佐野っ…」
礼貴は何度も環の名前を呼び、しつこいくらいに口付けた。
環はもう訳がわからなくなり、ただ塞がれる唇の柔らかさや礼貴の体温に頭がぼーっとしていくだけだ。
唇が離れた瞬間、止めていた息を思い出したかのように吸い、再びがっつくように合わさる。
目の前の筋肉質な男の前では、細身な環の力では抗える術すらなかった。
最初は嫌だと思っていた筈なのに、いつの間にか礼貴の心とシンクロするように受け入れてしまっている。
いや、受け入れる以外の道がないと言った方が正しいのだろうか。
環から見てもわかる程に、礼貴が自分に向ける感情はとても危険だ。
崇拝、または心酔しきっていて、人違いをしているのではないかと思う程である。
全く心当たりがないのだ。
朝、教室で会っただけのクラスメイト。
それがいつの間にか恋人と言う立場となっており、何が何だかわからない。
更には貞操の危機。
あまりにも一方的過ぎて、ただ混乱するばかりだった。
そして、礼貴の想いに自分は絆されかけているのかもしれない。
いけない、早く拒絶しなくては。
そう思うのに、あの強い視線、筋肉質な腕の中、何度も愛を囁かれてしまえば、頭の中に霧がかかったようになり判断が鈍っていった。
(……ここまでか)
礼貴は小さな舌打ちをし、悔しそうに顔を歪ませた。
剣道をしていたからわかる。
こちらに向かってくる複数の気配から殺気じみたものを感じ、今はキスをしている場合ではない。
それなのに、この甘い唇から少しも離れたくないのだ。
「っ…佐野…ん…、好き、だ…んっ…」
ちゅくっと舌を入れて、再び深く貪った。
環を押し潰さないよう、体重をかけず、何度も角度を変えて味わい尽くす。
着崩れと粘着音が響き渡り、礼貴は夢中になって唇を堪能していった。
「ふぁ…ん…、ん、っ…ん…」
環はほろほろと涙を流しながら、ただされるがままだった。
なのに、いつの間にか嫌悪感は消え、この行為に慣れ始めている。
礼貴の想いが伝わって来て、胸が苦しくなった。
だからだろう。
環は無意識に礼貴の舌に自らのそれを絡めてしまった。
「っ…!!?」
礼貴の体が飛び上がる程に揺れたかと思えば、ふーふーっと興奮するような荒々しい呼吸へと変化して行く。
「っ…佐野っ…!」
礼貴は顔を真っ赤に染め、環の膝裏に腕を持って行く。
そして、太腿の裏側を厭らしい手付きで撫でたのだった。
「ひゃっ…!?」
それがあまりにも性的な動きに、環の体がびくんと揺れるのだった。
結局、いつもの流され主人公になっちゃったよね(笑)今回はちょっと違う感じでやりたかったけど、どう足掻こうが自分が好きな方に流れるのは自然な事だな。
2025.04.21
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