tori


朝からゴタゴタ


朝からラインが全生徒に送られる。
今回の初期セッションの内容だった。
それは同ポジション禁止の異種セッション。
すなわち、ひとつのチームに同じ選択パート同士は組めないと言う事。
例えるならば、歌手同士のアカペラやコーラスは不可。
楽器はギターとバイオリンは弦楽器、ベースとドラムは打楽器、ピアノは鍵盤楽器になるので同じ種類の楽器はNG。
ダンスならばユニットやダンサー同士も不可。
俳優ならばドラマや映画を作るなども出来ない。
声優もまた同様であり、ひとつのジャンルからひとつしか選出出来ないシステムとなってた。
これには互いに前もってチームを組もうとしていた生徒達が落胆の色を隠せないのは仕方なかった。
第1回目から波乱となった初期セッション、無事に開催されるのだろうか。

「環、良かった…」

朝、海向の部屋へ行こうと環がロックキーを解除すると泉水がドアの前に立っていた。

「泉水、おはよう」

環と海向で即興してから、前から泉水と3人でグループを作る予定だったので、早速会えた事に喜ぶ。

「なかなかそっちにいけなくて…悪い」

泉水は海向から何となく聞いていたのだろう。
とても心配そうな顔をする。
環も泉水には話そうと思っていただけに、海向が先回りしてくれた事に感謝しかない。
何と伝えれば良いのか、正直わからなかった。
男に3回も襲われるなど、非日常的な事を理解しろと言う方が難しいだろう。

「そんな事ないよ。心配してくれて、ありがとう。あと一緒にセッション出来て、凄く嬉しいよ」

ふわりと微笑む環に、泉水がほっと胸を撫で下ろす。
この平凡だけどほっとおけない少年を泉水は兄のような気持ちで見守っているのだ。

「朝、連城から聞いた。即興なのにヤバかったって…」
「うん、本当にびっくりするくらいに息がぴったりで。だから、泉水とも早く合わせたい」

互いに微笑み合っていると、隣の部屋から海向と昂輝が出て来た。

「あ、おはようさん。2人ともおって良かったわ」

海向が環の隣へと移動し、昂輝もその輪に加わる。

「始めまして。折川さんっすよね?ドラム見ました。凄かったっすね。俺、海老名昂輝です」

昂輝が礼儀正しく年上である泉水に挨拶すれば、同じように泉水も返した。
しばらく4人で話していると海向の部屋のロックキーが解除され、律が出て来る。

「…あ、ヤバ…」

海向がやばいと言う顔をすれば、昂輝が苦笑いする。
昨日、環と即興した後に付き合える事になって、海向なりに浮かれてしまった。
律を説得して環の護衛につけようとしたのだが、興奮してしまい忘れてしまったのだ。
泉水とはその後にラインで色々報告したが、環と恋人になった事については言わずにいた。
だから、昂輝との約束を忘れ、律を環の護衛にする説得を完全に抜け落ちていたのである。
昂輝もあれから何の音沙汰もない事から、忘れているんだろうと何となく気付いていた。

「あ…」

環はクラスメイトの律にびっくりし、かちんと固まる。
結局、昨日教室では起こせなくて、そのままにしてしまったから気まずくて仕方ない。

「……ねぇ、アンタ、名前」

つかつかと物凄い早さで歩いて来るとぴたりと環の前で止まった。
律のマイペースで無気力な姿しか知らない面々が唖然としたまま見つめる。

「……聞こえたでしょ。……名前」

泉水や昂輝を越える長身に、環が再び固まるのに時間はかからなかった。

「…何やねん、浅間。環に何の用や?」

海向が律を睨みつけ、環の前に出る。
本当にお姫様を守るナイトのようである。
環はまた海向が庇ってくれた事に心が温まり、密かに皆にはバレないよう胸に手をあて、喜んだ。

「…連城、邪魔。…俺、今、こいつに用があるんだけど…」

無表情なまま、冷たい瞳で海向を上から睨みつけ、環へと視線を向ける。
びくりと環の肩が揺れ、海向の背中の制服をぎゅっと掴んだ。
その仕草に海向の頬が微かに赤くなり、満足そうな顔になれば、律の瞳が細まった。

「……何?……本当、むかつくんだけど」

律にしては珍しく苛立ちを隠しもせずに海向を心底煩わしいそうに見やる。
2人の空気が友人と言うよりもそれ以上に見えたのは律だけなのだろうか。
周りの誰もが気づかない、一瞬の甘さが垣間見えた。
すーっと律の目元が更に細まり、海向に対して憎悪にも似た感情が芽生える。

「……浅間…?」

海向が微かにいつもと様子の違う律に驚き、固まった。
同じ男だからわかる。
律の目にめらめらとした炎が宿っている事に。
その理由が環であり、こちらに向けれる感情が何なのか一瞬で悟ったのだった。


2025.05.06

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