tori


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海向と律、2人の雰囲気を不思議に思い、環が首を傾げる。
互いに見つめ合ったまま、時が止まったかのようにしているのだから、それは当然だろう。

「海向…」

ぎゅっと後ろから抱きつくように不安そうな環に気づき、海向は律から視線を逸らす。
そして慈愛に満ちたような優しい微笑みを浮かべ、環に安心させるよう頷いた。

「………」

そんな2人のやり取りを見て、律の胸がちりっと焼け付くような苛立ちが走る。
それが何なのか解らず、不思議そうに胸元へと手をあてたのだった。

「あ?いつまでそこにいんだよ…!早くどっか行けよ!」

黙っていないのが番犬こと昂輝である。
律の目の前に来て、メンチを切り、舌打ちした。

「あ、えびちゃんじゃーん」

表情は冷たいまま、馬鹿にするように棒読みで名前を呼ぶ。
わざと挑発してるのだ。
やっといつもの律らしさに戻り、海向が少しだけ息をついた。

「っ!?てめぇ!!浅間!!!」

えびちゃん、そう愛称を呼ばれる事が何より嫌う昂輝がブチ切れるのは早かった。

「まだ連城のわんちゃんやってるんだー」
「…あぁ!?馬鹿にしてんのか、てめぇ!!わんちゃんって何だよ!?」

本当に意味がわからないと昂輝が律の胸ぐらを掴むと同時に、律もまた昂輝の胸ぐらを掴んだ。
互いに顔を近づけ、昂輝は下から睨みつけ、律は上から蔑むような冷たい視線を送った。

「ヒョロヒョロの癖にいっちょ前に動きだけは早いんだな!?」
「……単細胞の癖に口だけは、達者だよねぇ…」

互いに胸ぐらを掴み、互いの言葉に苛つきを見せる。
同時に殴りかかろうとすれば、今度はストーカーこと礼貴が現れたのだ。

「佐野っ!!!」

びくりと環の体が跳ね、声のする方を恐る恐る見れば、トラウマにもなった礼貴の姿。

「ひっ…!」

環が顔面蒼白になりながら、嫌々するように顔を左右に振った。
そしてじりじりと後退る。

「あぁ!!今日も何と美しい!朝から佐野に会えるなんて、運命だな!!」
「いや、自分、迎えにきてるやんか!」

すかさず海向がツッコミ入れるも礼貴には環しか映っていない。

「さぁ、佐野!!俺の胸に飛び込んでくるが良い!!また昨日の続きをしよう!」

両手を広げ、近付いて来る。
昨日の続き、その言葉に海向が舌打ちをする。

「おい、ストーカー野郎…環に一度でも触れてみい?……俺がお前をぶっ殺したる」

昨日の光景が海向の脳裏によみがえる。
無理矢理唇を奪い、涙する環の姿。
二度とあんな思いはさせない。
自分以外の人間が触れる等、許しはしない。

「っ、次から次へと来やがって!!」

昂輝が舌打ちし、律と礼貴を交互に見る。
どちらも危険人物に変わりない。
昂輝と礼貴、2人は昨日あのまま殴り合いの喧嘩になったのだが、力が互角だったのだろう。
昂輝は元総長としての喧嘩の実力があり、礼貴もまた元主将としての剣道の腕前があった。
結局決着つかず、表だった怪我などもなく、互いに疲れ果てて終了したのだった。
そんな一部始終を見せられた新の顔といったら、顔面蒼白で今にも失神しそうであったのだ。
そんな事があってからの、本日の出現。
昂輝が苦虫を噛み潰したような表情をするのはごく当たり前の事だった。


2025.05.11

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