強い意志
「おはよう、って…え?……佐野と浅間?いつの間に…?」
知之が驚くのも無理ない。
環と律が2人仲良く登校して来たのだから。
仲良くと言うのは語弊があるが、環はげっそりと窶れ、律に至っては親鳥を追うかの如く後から着いてくるのだった。
「おはよう…。何から話せば良いのかな?ちょっと色々ありすぎて、パンク寸前…」
ずーんと沈んだ表情のまま、環は席に着いた。
朝からとても濃かったのだ。
主に礼貴が。
そして、律も席に着いたまでは良かったのだが、ガガガっと机を退かして、環の横にぴったりと張り付くように座ったのである。
「え…?何事?」
知之が目を白黒させて、環と律を交互に見つめた。
「佐野、…俺とセッション組んで……」
あれから環に名前を教えてもらい、上機嫌な律。
見た目的には何も変わらないのだが、とてもるんるんなのである。
「一緒にデビューしたい…」
その言葉に知之がすっとんきょんな声をあげる。
「はは…、そうなる、よな?だって…無理だよ、同じ歌手専攻なんだから…って、デビュー!?」
疲れ果てた環はがっくりと項垂れた後に、律の最後の言葉に反応する。
「え…、誰と誰が??」
「俺と佐野が」
ぴしりと固まる環。
何事もなかったように環を見つめる律。
「…佐野とデビューしたい」
相変わらず何を考えてるかわからない瞳と、棒読みな言葉にいまいち本気度がわからない。
環は思う。
玩具として気に入られたのかな、と。
「……1日で何があったんだよ」
何が何だかわからず、知之は律をじっと見つめた。
見れば見る程に整った綺麗な顔をしてるではないか。
確かに環は凄いが、この無気力な男が執着する理由は何なんだろう。
「ねぇ、ヴォーカル同士は同じチームになれないんでしょ?」
律は環ではなく、知之に顔を向け話しかける。
突然の事に驚くがぶんぶんと顔を大きく上下に振って答えた。
「……ふーん、残念だね。でも、そっか…。わかった。俺、専攻変える…」
「…………え?」
「……は!?」
ぼそりと呟いた律の言葉に、環が時間を空けて聞き返し、知之はびっくりして大声をあげてしまった。
「どうしても佐野とデビューしたい。…なら、簡単じゃん。ヴォーカル以外になれば、佐野と組めるって事でしょ…」
いとも簡単に言うが、そんなすぐに専攻パートを変える事が出来るのだろうか。
「……え!?ちょっと待って!歌手になりたかったんだよね!?だから、ここにいるだろ!?……そもそも浅間くんは他の専攻も出来るの?」
「律」
環がびっくりしてれば、律が自分の名前を呼んだ。
「……?」
「浅間くんじゃなくて、律」
じーっと意図の読めない目線に、環がゆっくりと名前を呼ぶ。
「律…くん?」
「くん、はいらない」
光のこもらない瞳を向け、環だけを見つめる視線の強さは凄まじいものだった。
「………律」
「そう…それで良いよ」
満足したのだろう。
何故か頭を優しく撫でられた。
その様子に知之はぽかんとしながら2人を見つめたのである。
無表情で撫でる手がぎこち無いにも関わらず、律なりの愛情表現なのだろう。
環もきょとんとしながら、撫でられる手を上目遣いで見つめるのであった。
2025.05.15
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