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「こ、…怖っ…!!」
環ががたがたと震え、礼貴が近づく度に後退る。
海向と昂輝が礼貴の前に立ちはだかり、環を守ると必然的に律がノーマークとなってしまった。
律は環に素早く近づき、優しく、それでいて不器用に頭を撫でる。
「……?」
環は律からそんな事をされるとは思ってもみなかった為、きょとんとした顔で見上げる。
「……あいつ、怖いねぇ。顔、真っ青だけど、あんた大丈夫??」
礼貴の事を言っているのだろう。
律が心配してくれている事に気がそれ、顔色が幾分か元に戻っていた。
「……それにしても案外、小さいんだ…」
律の言葉に、環が不思議そうに見つめる。
更には身長の事を言われているのだと気づき、決して平均的には低くはないのだがまさかそこを弄られるとは思ってもなかった為に更にハテナマークが浮かぶ。
そりゃ、律に比べたら全ての人間が小さく見えるのだろう。
190cmの高身長だ。
環より20cm程高い。
だが聞く人間によっては馬鹿された、貶されたと思うのかもしれないが、環にはそうは聞こえなかった。
環自身が自分の身長が低いとは思っていないのも要因のひとつではあるが、15歳にして170cmあれば世間一般では立派と言えるだろう。
律の表情を見ればわかるのだが、少しだけ意外そうな顔をし、純粋に環の身長にひとり納得し、勝手に話しかけている感じが見受けられたのだ。
律から向けられる視線に悪意は全くなかった事から、環は首を傾げぽやんとしていた。
そんな姿を見て、律の目元が優しく細まる。
少しだけ微笑んだように見え、環は目を大きく見開いたのだった。
ファーストコンタクトの印象があまりにも強くて、こんな風に笑う事が出来るのかと驚きを隠せなかったのである。
酷い言い方だが、無気力、無反応、省エネなイメージしかなかった為、少し微笑んだ顔の破壊力といったら凄まじいものだった。
元々美形であったが、冷たいと言うか、冷めてる印象が強い。
それが口元に笑みを浮かべるだけで、絵に描いたような格好良さに変わり、環が思わず照れてしまったのは仕方のない事である。
まるでこの2人だけは別世界かのように、空気が若干和んでいるではないか。
このカオスな状況にも関わらず。
「……うん、やっぱ…小さいけど、ちょうど良いかもね」
どうやらお気に召した様子である。
やはり律は環の身長を馬鹿にしてる訳でも貶してる訳でもなく、自分なりの着地点に辿り着いた模様だ。
「……えーと…ありがとう?」
環は訳もわからず、撫でられ続ける中でお礼を言ってしまう。
そんな様子を泉水はひとり外野よろしく状態で空気化しており、やっと理解する事が出来、我に返ったのだった。
海向から聞いてはいたが、あまりにも礼貴のインパクトの強さに環を放置していた事に気づくが時既に遅し。
律の魔の手に架かってしまっていたのだった。
だが、何故か危険は感じなかったので、とりあえず泉水は安堵し、放置する事にしたのである。
「ちょっと、てっしー……って、うわぁあぁぁ!!!もう始まってんだけどぉぉぉ…!!!?昨日のデジャブぅぅ!?」
新が礼貴を回収しに来ると、そこは戦場と化していた。
「佐野っ、佐野ーっ!!!」
礼貴が環に向けてを伸ばし、それを体で抑えつける昂輝。
寝技のように転がる2人に対し、海向がひたすらげしげしと礼貴の頭を蹴り上げる。
そしてそんな様子を気にも留めてないように環と律がほんわか話始め、どうやら自己紹介的なものが始まっていたのだった。
何故かその間も律が環の頭をずっと撫でており、すぐ近くでは3人のバトルが繰り広げられている。
そしておろおろと慌てふためき、どうしたら良いのかわからない泉水の姿があったのだ。
「どゆ事ぉぉ!!?朝からカオスなんですけどぉぉぉ…!!?誰か説明プリーズぅぅ!!!」
ムンクの叫びのように新が青ざめ、気絶寸前になっていれば、仲間を見つけたとばかりに泉水が助けを求める。
見た目ミステリアスで格好良い顔が台無しだ。
常識人2人があたふたする事態になったのは、言うまでもなかったのだった。
2025.05.14
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