初バンド
結局、あれから律は教室には帰って来なかった。
環は自分のせいで、将来歌手としての彼の未来を妨げてしまうんじゃないか後悔の念が押し寄せる。
間違いなく律はヴォーカル向きだ。
あの独特な雰囲気、全身から溢れるオーラ、高身長と抜群のスタイル、それだけでも素晴らしいのに、顔が物凄く整っている。
絶対人気が出るだろう。
自分なんかに執着しないで、他のメンバーを探した方が確実だ。
それなのに、組みたがる意味が正直わからなかった。
何故、海向や泉水ではなく、自分なのだろう、かと。
「……そうか。あの朝の奴が環と組みたいって、出て行ったきり…なんだな?」
泉水はドラムの調節をしながら、朝の光景を思い浮かべる。
確かに異様なまでの執着だった。
環の名前をやっとこさ聞き出し、スマホを操作して、友達登録させるまでを見たが本当に何を考えてるか最後までわからない少年と言うのが泉水の見解だ。
オーディションの時、絶対に環と海向と組むと決めていたから、律の存在は特に異質なものだった。
別に律が加入する事に反対意見などはない。
嫌でもないし、居てもいいとは思う。
けど正直興味がないのだ。
律と言う男に対して、何か思う所がなかった。
言い方は悪いが、自分の人生の中で必要だと思うものがなかった。
環と海向には感じるのに、律には感じない。
きっとその差なのだろう。
泉水の中で律を入れた4人でセッションする事もデビューする未来すら頑張って考えても思い描けないのだ。
かと言って、3人で必ずデビュー出来るかと言われたらわからないが、それでも環の歌を聴いた瞬間、胸が熱くなり、忘れかけていた思いが溢れてきた。
絶対に思い違いだし、どうかしてると言われたらそうなのかもしれないが、ioriを初めて見た時のような衝撃が走ったのである。
理解などしてもらえないから、これから先も誰にも言うつもりはないし、聞いてもらおうとも思わない。
泉水の中でioriは絶対的存在である事に、今までもこれからも変わりない。
それでも一瞬、ほんの一瞬だけ、心深くにしまっていた扉が開いた音が聞こえた。
危険だ、この少年に近づくな。
そう泉水の中で警告音がなっていた。
ioriがずっと好きで堪らなくて、プロになって和空から奪うつもりだったのに。
その為に今までどんなに辛くても悲しくてもここまで必死にドラムを練習してきた。
もちろん単純にドラムが好きだと言うのもあるし、和空への対抗意識でここまで実力をつけられた事には感謝しかない。
なのに、そんな思いがどうでもよくなるくらい、惹きつけられてしまったのだ。
ioriの長年の片想いなど、一瞬にして消え去る程に舞台の上に立つ環の神々しさに、美しさに囚われてしまった。
だから、我慢する事が出来なかったのだ。
気づいたら、海向にラインしてグループ組もうと送っていた。
環の歌を聴いた瞬間から、囚われ、心奪われていたのかもしれない。
それが恋愛的な意味なのかはまだわからないが、ioriの背中だけを追っていた泉水の中で初めて別のものに目を向ける事が出来た瞬間だったのだ。
ついに1番存在感の薄い泉水のターンが来ました。3人でプロデビューする目的で作った割に、案外ブレブレになって当初の目的とかけ離れた使い方になったなと思いながら、これどうするかなって迷ってたけど、やはり1番最初に考えたAパターンにしようと決めました(笑)勝手にしてくれよ、って話ですよねwwwいつも独り言、聞いてくれて、ありがとうございます。
2025.06.03
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