孤高なる存在
その頃、律はそこら辺にいる生徒を引っ張って来てはトランペットを習っていた。
集中力もだが、何でも出来る天才肌の為、本人が語っていたようにそれなりにこなせたのである。
「へぇー…こんなもんか」
しばらく練習し、今度はピアノを試してみようと思うのだった。
近々、グループに合流出来るだろう。
得意な方で環とセッションをすると改めて心に決めるのであった。
「……俺の運命」
窓から射し込む光りを眩しそうに見つめ、この場にはいない環を思い浮かべるのだった。
講堂には大きなパイプオルガンがあり、そこには青蘭が立っていた。
ステンドグラスから太陽の光が差し、黒髪を照らす。
天使の輪を作る程のキューティクルを放ち、透き通るような綺麗で小麦色をした肌。
薄い唇はリップクリームにより潤い、茶色の瞳がきらりと光り輝いていた。
講堂には何人もの生徒達がおり、壇上の上にいる青蘭に釘付けとなっている。
とにかく幻想的で美しいのだ。
更には彼が醸し出す雰囲気がエキゾチックで、艷やかだった。
背筋をぴんとし、所作や動きひとつひとつが洗礼されており、御曹司を思わせるには充分過ぎる程だ。
そして何より放たれる圧が凄い。
パイプオルガンの椅子を引き、無駄のない動きで座った。
『……良い材質だな』
指を滑らすようにオルガンに触れ、感触を確かめる。
程よくフィットする感じに、これから演奏するであろう気持ちが少しだけ昂ぶってくるのが自分でもわかった。
楽譜を置き、指の運動を始める。
きつい印象を思わせる目を閉じれば、先程までの威圧的な雰囲気が一気に消えた。
鍵盤に指を置き、ゆっくりと瞳を開ける。
水面のような緩やかで美しい旋律が響き、その場にいる生徒達が驚きの表情を浮かべた後、その美しい音にうっとりと聴き惚れて行く。
講堂に重低音が響き、足元からびりびりと伝わる振動。
水の旋律のような流れから、大地を揺るがすかのような音に変化すれば、その場にいる誰もが圧倒的なまでの衝撃を受ける。
電流を放たれたような高揚感がその場に広がり、視覚と聴覚が青蘭を離さない。
天才とは彼の事を言うのだろう。
未だかつてない程に調和のとれた美しい演奏に、高速な指の動きが一糸乱れる事なく弾かれる。
ピアノ専攻してない人間にもわかる程の難易度の高い曲。
何万人にひとりしか演奏出来ない音楽を優雅に、そして余裕そうに奏でるのだから驚きである。
鳥肌が立ち、その場に立っているのもやっとなレベルだ。
そこら辺のプロなんかよりも素晴らしい旋律。
青蘭は楽譜だけを見て、他のものは全て遮断し、ひたすら弾いていく。
その心中は目に入れても痛くない程に愛してやまない妹の姿。
あの笑顔を思い浮かべる度に、幸せな気持ちへと導かれる。
この血に宿る王家の血筋。
あの男のように卑劣で無情な血が流れてると思うだけで、腸が煮えくり返ってくる。
王の名を捨てて、はるばる日本まで来た。
妹の為にプロになると決意し、ここまでひとりでやって来たのだ。
だから、生半可な気持ちでいる輩を見るとむしゃくしゃして堪らなかった。
今回のセッションでデビューし、妹の為に最善を尽くす。
それが青蘭のたったひとつの願いだったのだ。
「……へぇ、…凄いじゃん」
そんな青蘭を見て、律はビー玉のような瞳で見つめていた。
ピアノを教わるなら、彼しかいない。
そう思いながら。
2025.06.14
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