tori


通じ合う心


どのくらい抱きしめ合っていたのだろうか。
海向は腕の中にいる環が愛しくて仕方ない。
甘えるように縋り付く姿は、いつも自分にしか見せない特別なものである。
まだ完全に両想いではないにしろ、今、1番環の近くにいるのは自分であると思うだけで嬉しくて堪らなかった。

「環…キスしたいんやけど…」

そっと体を離すと、ぴくりと環が固まった。
顔を見れば真っ赤になっており、唇をきゅっと噛んでいる。
この顔は嫌がっていると言うよりも意識しているのが目に見えてわかり、海向は思わずふっと笑ってしまった。

「っ…キス、しない…」

ぷいっと環が顔を逸し、更に顔を真っ赤にするものだから、機嫌を直して欲しくて、両頬に手を添え自分に向くよう固定する。
こんな姿も自分にしか見せないと思うだけで、可愛くて仕方ないのだった。

「…俺はキスしたい」

優しく甘い声で囁かれ、ぐっと環は押し黙った。

「俺は環に触れたいし、キスもたくさんしたくて堪らん。今はまだ早いかもしれんが、その先だって進みたいんやけど…アカンか?」

熱い瞳の奥に、微かに垣間見える男としての本能。
普段から格好良いと思っていたが、海向のこんな顔は更に男らしくて、非の打ち所がない程に格好良かったのである。

「さ…先って…」

環が目を潤ませ、動揺しているのがわかる。
どう反応して良いのかわからないだけで、決して嫌がっている訳でない事を感じとり、とても嬉しい気持ちになった。

「そない思う俺の傍におって…後悔せん?」

海向の纏う空気が一変し、急に色気がぶわっと放たれる。
環は目を大きく見開き、海向を見つめた。
互いに重なり合う視線。
環はその青く輝く瞳から、目をそらせなくなってしまう。

「…他の奴になんて触れさせへん。…環に触れてええのは…俺だけや。…ずっとキス、しとうて堪らんかった…。こうして触れとうて…仕方なかったんや…」

いつもより低く発せられた声と共に、海向の指が環の唇をゆっくりなぞっていく。
触れられた場所から火がついたかのように熱くなり、何度も唇を確かめるように動く指の感触に、環の背筋がぞくりと震えた。

「…こない触れたら、止まらんくなるわ…。おかしいやろ?触れたいのに、いっぱいいっぱい過ぎて、震えておかしくなってしまいそうや…」

そう語る程に、海向の指が微かに震えているのなわかり、環の胸がきゅんと高鳴っていく。

「嬉し過ぎて…舞い上がってしまいそうになる…。可愛過ぎて、タガはずれそうやないか…」

こんな海向は知らない。
真剣な表情をし、目の奥にぎらりと鋭く宿る本能を隠しもしない男の顔をした彼を。
性欲なんて皆無と思わせる程な草食系に見えるのに、今は肉食系にしか見えないのだ。

「っ…」

(ダメだ…格好良くて、おかしくなりそう)

先程からきゅんきゅんと胸がときめいて仕方ない。
初めて会った時から感じていたが、海向は綺麗だけど物凄く格好良いのだ。
それが今は更に格好良く見えて、どうしようもない。

「…今はまだ心の準備とか、色々あるやろから手は出さへん。せやけど…キスだけはさせてや」

ふっと優しく微笑まれ、環はこくんと頷いた。

「……ん。いいよ。…キスから始めてくれるなら、怖くないし…。少しずつしてくれれば、大丈夫だと…思う」

何を言っているのだろうか。
それでは抱かれる事を了承したも同然なのに。
わかっているのだ。
海向に触れられる事は気持ちが良くて、幸せな心地になる事を。
だから、少しずつゆっくり慣らしてくれたら、きっと大丈夫。
そう思えた。

「早速やけど…ええか?」

そう言って、ゆっくりと海向が近付いて来る。

「……うん」

環は海向の腕に手を添え、瞳を閉じた。

「おおきに…」

海向の嬉しそうな声がしたかと思えば、しっとりとした柔らかな唇の感触がし、それが唇だと理解するのに時間はかからなかった。
ふわりと鼻腔に香る甘い匂いは、海向の愛用しているリップクリームだろう。
いつでも海向の唇は潤い、艶やかで、見てるだけで形が整って綺麗だった。
何度も触れては離れる優しい口付け。
環は心地良くて、海向の肩に両手を置いた。
ぴくりと海向が反応し、優しく触れるものから、微かだが求めるようなキスへと変わっていく。

「…ん」

環から洩れる甘い吐息。
くらっとする程に甘くて魅力的な唇に、海向は酔いしれた。
少しずつ角度を変え、唇を開き、吸い付くように口付けすれば、ぴくんと今度は環の体が揺れる。

「…環」

唇を離し、名前を呼べばゆっくり開かれる瞳。
きらきらと水気を帯び、熱によりぽうっとしている。
その無防備さに海向の雄としての本能が刺激された。

「口、開けてや…」

ふるふると震えながら、環は真っ赤な顔をして言われた通り口を開いた。

「可愛ぇ…」

海向が嬉しそうに笑い、再び口付ける。
今度は先程とは違い、ぬるりと口腔内に舌が入ってきた。
ゆっくり動くそれが海向なりの優しさなんだと気づき、環は徐々に力を抜き甘えるように抱きつく。
温かなぬくもりを感じ、礼貴からされた口付けとは全く違い、物凄く幸せな気分になるのだった。


2025.05.01

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