ライバル
「え…?……勅使河原?」
先程、真っ赤にして逃げた礼貴の姿がそこにあった。
何故、自分は彼に寄りかかるようにして、手首を掴まれているのだろうか。
頬を赤らめ、まるで自分に好意を抱いているかのような表情をしているのが気になる。
「何…で…?」
やはり近くに立てばわかる程の身長差とがっちりとした筋肉質な体。
上から覗かれてるだけで、迫力があった。
ごくりと礼貴の喉がなった。
「佐野が俺の名を…。佐野…、あぁ、凄く良い匂いだ…。佐野、佐野、佐野っ…!!」
何度も名前を呼ばれ、逸らす事の出来ない視線。
このままじゃいけない。
そう思うのに、礼貴から目が逸らす事が出来なかった。
「っ…佐野が俺を見ている…!あの佐野が…!」
何かぶつぶつ言い、礼貴の体がぶるぶると震え始めた。
周りからは悲鳴にも似たような声と、ざわめきが聞こえる。
「こんな…近くに…。何て幸せな1日だろうか…!」
ギラギラとした野生動物を想像させるような獰猛な瞳。
飢えた獣のような荒い息遣い。
体からあふれ出す闘志にも似た威圧的なオーラ。
その全てに環が恐怖する。
「あぁ…何て事だ。佐野に触れるなんて…この腕で抱き締められるなんて…っ!」
相変わらずぶつぶつと何かを呟いているが、早口過ぎて誰にも聞き取れない。
「何て綺麗なんだ…。その赤い唇、むしゃぶりつきたい。その細い体、今すぐ抱き締めたい…。佐野の中に入って抱き潰したい…。どうしたら一緒にいれるんだ…?…っ、そうか!結婚すれば良いのか!」
はぁはぁと更に興奮していく。
どうやら自問自答してるらしくて、そのどれもが災難な事に全部聞こえてしまった。
途端に環の顔面がさーっと青褪める。
そして恐ろしいくらいにガタガタと震え始めたのだった。
「っ…!」
怖い、目の前にいる男が怖くて堪らない。
彼は今、何と言ったのか。
脳が理解したくないと拒む。
それなのに涼介の顔がちらついて仕方がない。
怖い、あの時と同じくらい恐ろしくて堪らないのだ。
「環に触んなや。何て、何て、うるさいわ…ボケェ」
低い声がし、気づけば海向によりお姫様抱っこされているではないか。
一瞬の出来事で何が起きたのかわからず、環は咄嗟にぎゅっと抱き着いた。
この匂いと温もりは怖くない。
むしろ酷く心地良くて、先程までの恐怖が消えていく。
安心させるような優しい触れ方に、自然と甘えるように環は更に抱きついた。
「誰に触れとるんや。環に触れてええのは俺だけや…」
青筋を立て、床に尻もちつく礼貴を上から睨みつけた。
普段なら見上げなければ合わない視線。
それを素早い動きで足蹴りをし、礼貴から環を奪還し、一瞬のうちに転ばせたのだった。
美少女顔負けで細身に見える海向だが、実は喧嘩に負けない為に有酸素運動は欠かさず、ギターを自由自在に弾き熟す為に筋力トレーニングをしているので見えない所はムキムキだったりするのだ。
「海向っ…」
またしてもピンチを救ってくれた海向が嬉しくて、環は擦り擦りと頬ずりをする。
その姿に海向の胸はきゅんと高鳴り、礼貴の心臓は絶望により止まりかけたのは言うまでもない。
無自覚にいちゃいちゃする2人に誰も入るスキなどなかったのだった。
2025.04.14
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