tori


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古郷新の昼休みはこうして始まる。
違うクラスである礼貴が来ており、何やらずっとむくれた面をしていた。
恐ろしい程に目力のある眼光を光らせ、その身から溢れるどす黒いオーラ。

「佐野が足りない!何故ここに佐野がいないんだ!!」
「知らないよ、勅使河原がここに来てるからじゃない?それよりも空気悪くなるから、早く帰ってくれる?」
「えぇぇ!?可梛、その言い方無くないぃぃ!さすがのてっしーも傷つくと思うよぉぉ…」

そう思って新が礼貴を見れば、先程と何も変わらないテンションで食パンを食べていた。
それも一斤丸ごと。

「ねえぇぇ!!食パン一斤何もつけずに食べるって何事ぉぉ!?」
「甘くて美味しいぞ?そんな物欲しそうな顔をしても佐野以外にやるつもりはない」
「いらないからぁぁぁ…、ついでに佐野くんって人もいらないと思うよぉぉ」
「っ、何!?誠か!?」
「え、そこ、驚くとこぉぉ…?」

どうやら可梛の発言に傷ついてもないし、むしろゴーイングマイウェイの持ち主らしい。

「今日もお弁当作って来たから、一緒に食べようね」

可梛は嬉しそうに、にっこりと微笑み、新の分のお弁当を開けて見せた。

「え、ありがとう?良いの?って、めっちゃ嬉しいけど、自由ぅぅ!!え、何ぃぃ?俺がおかしいのぉぉ??」
「落ち着きがないぞ、古郷。いくら俺が食パンをあげないからって、駄々捏ねるのはどうかと思うぞ!」
「誰のせいだと思ってるのぉぉ!!子供じゃないから、駄々捏ねないからねぇぇ…。食パン欲しくないよ、俺、食いしん坊キャラじゃないってぇ…」
「そうだね、どちらかと言うと俺が新を食べる方だから、確かにそれは違うね?あ、でも僕が新にそうにゅ…」
「もう黙ってぇぇぇ!!!!何かよくわからないけど、絶対その先聞いちゃいけない気がするぅぅ!!!」

わちゃわちゃと初日にも関わらず賑やかな教室。
いや、3人。
もちろん新の隣に可梛、礼貴の前には何故か立てられた教科書がおいてある。

「俺に見せつけるように目の前で、…ふ、ふしだらな事をするなっ…!!」
「してないけどねぇぇ!!そして、顔真っ赤にしないでぇぇ!!何か俺まで恥ずかしくなってくるからぁぁ…」
「羞恥心で照れる新、凄く可愛いよ」
「お願い、もう本当に黙っててぇぇ…!!」

礼貴は顔を赤らめ、羨望の眼差しと恨みがましい目で可梛を睨み付けた。
自分も環といちゃいちゃしたいと。

「だからバリケード作ってあげてるんでしょ?あまり僕達に近寄らないでくれる?僕の新が汚れるてしまうよ」
「えっ!?そう言う事なの?この教科書、バリケードだったのかぁぁ!?って、全然隠れてないからねぇぇ…。クラスの反応見てぇ…ドン引きしてるからぁぁ…」

3人のテンションと言うか、世界観に唖然とする教室。
きっとこれで友達は増えないだろう。
そう思う新だったのである。

「害虫駆除は出来たみたいだね。この大きい虫は出来なかったけど」

ぼそりと呟く低い声は誰にも聞こえなかった。
礼貴に向けた冷たい表情とはうって変わり、隣の新の手を包み込み、可梛はとろけんばかりの笑みを浮かべる。

「僕以外の男が新の視界に入るなんて、とても許せないからね。その逆もしかりだよ。新には僕だけがいれば良いんだよ。同じ空気吸うのも我慢出来ないくらい、イライラしちゃうな」
「ひえ…!?何その執着心!!とてもじゃないけど、友情…、いや、幼馴染みの域を越えてる発言なんですけどぉぉ…」
「うん、愛してるからね。もっと僕だけを見てよ、寂しくて死んじゃいそうだよ。兎って寂しいと死んじゃうんだって、だから、ね…?」

ぎゅっと握られる手から逃げようとしてもびくともしない。
何、この腕力。

「えぇぇぇ…?またまたぁ、冗談がキツイんだよねぇ…」
「どこに兎がいるんだ?」
「……ものの例えだよ」
(ツッコミが追い付かないぃぃ…、えぇ…、ナニコレ…)

新は何となく、この幼馴染みが執着する理由が友情だけではない事を身をもって痛感している。
毎朝、毎晩、スキンシップが酷いだけではない、キスやハグ等、友人としての距離ではないからだ。
そもそも言葉もだが行動もストレート過ぎる。
気付かない方がおかしい。

「ははっ、冗談だと思ってたんだ?そんなに僕の愛って伝わりにくいかな?そっか…、なら、今夜嫌って程に教えてあげないといけないよね?」

可梛は優しく微笑んでいるのに、何故だろうか。
目が笑ってない。

「……マニアッテマス、ケッコウデス」

新の目が死んだ魚のように何も映さず、片言で返事をするのがやっとであった。

「そうか、俺も佐野にそうすれば良いのか!」
「やめてぇぇぇ!!何か冗談じゃすまされないから、てっしーだけはやめてぇぇぇ……」
「ふーん…、やっぱり僕の言葉は冗談だと思ってるんだ?随分、甘く見られたものだよね…今夜覚悟して?もう逃がさないよ」
「ひぇ…!?ちがっ…」

その日、悪魔が覚醒したのを目の当たりにした新だったのである。
こうしていつも巻き込まれて、逆に目立ってしまうのだった。
平穏はいかに。


2026.05.30

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