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新はどうにか可梛の尾行をかいくぐり、やっとひとりの空間に来ていた。
(あ...しんどぉ…。実家出たくてオーディション通過したまでは良かったけど、まさか可梛まで着いてくるなんてぇ…)
そう、新の最大の誤算は可梛だった。
いつもどこでもべったりな彼から解放されたい、決して嫌いとかではない。
だけど、何か流されて絆されてる自分がいて、それはとても不本意な事で。
新にはそうなってはならない事情があった。
そして、可梛の顔がとても良いし、むしろ好感持てるから、許してしまいそうにる。
このままだと本当に可梛とそう言う関係になってしまうだろう。
それだけは避けたかった。
そしてもう1つ。
こんな明るい新でも実は家庭環境があまりよろしくなく、家族から離れてひとりで生きてく術を見つけたかったのだ。
その為に、ダンスや歌の練習も頑張って、プロになる事を夢見た。
何より待っててくれる人がいる。
その人の為にここまで頑張ってこれた。
だから油断していたのだろう。
絶対、可梛は来ないと思ってたから。
いや、正確には来れないのだとたかをか括ってたのだ。
家族は新に興味ない、だから進学さえも聞かれなかった。
勝手にしろと言わんばかりに学費と生活費は出してくれる。
両親共それなりの高収入だし、何より一流エリートだ。
だけど、高校卒業してからの援助はしない、そうはっきり言われた。
上の兄達はそれぞれ一流大学や医者と立派な進路を決めており、落ちこぼれな新は早々に切り捨てられたのである。
むしろありがたかった。
親や兄達と縁が切れるなら、何でも良かったのだ。
なのに、可梛はどこからか嗅ぎ付け、この学園に着いてきてしまった。
(嫌いじゃないよ、でも…受け入れられないんだよぉ…。俺を好きって、わかる…。けど、俺にはどうしても…)
はーっと大きなため息をつき、その場に踞る。
頭が痛い。
色々な事が起きすぎて、キャパオーバーしてしまっていた。
「…会いたい」
ぼそりと呟いた声に、自分自身ではっとした。
自分は何を考えているんだ。
またあの人に頼ろうとするなんて。
「…えっと、君、…大丈夫?」
澄んだような綺麗な声にはっとし、膝に押し付けていた顔を上げた。
するとそこには自分を心配そうに見下ろす優しい顔。
「え…?」
「凄く、しんどそうだけど、保健室いく?」
この少しだけ掠れた優しい音。
あの日聴いた歌声にとても似ていた。
まるで包み込むような綺麗な声。
「あ…、ぇ…」
新は声が出なかった。
見間違いかと思ったが、天井のライトから溢れる光が彼を天使だと思わせたからだ。
「どうしよう…俺ひとりじゃ抱えられないから……。あ、ちょっと待ってて、人を呼んで来る」
そう言って、天使こと少年は足早に消えてってしまった。
「…、……え!?」
驚いたのは新の方である。
メンタル的にしんどくて座っただけなのに、勘違いさせてしまった。
あまつさえ、人を呼んで来ると。
慌てて訂正しようと立ち上がろとしたら、ずっと踞っていたからだろう。
立ち眩みによる貧血を起こしてしまった。
そこにバタバタと人の足音がし、ぐったりしながらその人物に視線を向ける。
「こっちです、彼が、ここに…」
天使の声と共に重い足音。
そして彼よりもかなり高い身長とがっしりとした体つき。
「大丈夫か?」
その声を聞いて、本日2度目の驚きをするのだった。
「……みにぃ?」
新の言葉にぴたりと男は固まる。
そして、強く、でも力を込めずに両腕を捕まれた。
「……シン?」
低音でいて、大人の色気を感じさせる声。
そして美味しそうな匂いと共に鼻を掠めるタバコのフレーバーの香り。
「ん、…会いたかったぁ」
そう言って、ふにゃりと新は破顔し、目の前の男、みにぃこと御門己梛に体を預けた。
「ちょ、シン?っ、シン!」
ぎゅっと大切そうに新を抱きしめ、己梛は素早くお姫様抱っこをし、立ち上がる。
「少年、ありがとな。こいつ、俺の幼馴染みだわ」
そして少年こと、佐野環はほっとしたように微笑んだのだった。
ずっと会いたかった己梛の温もりと匂いに新の心がとくりと音を立てる。
微かに見えたのは環の綺麗な笑み。
そばかすが印象的だけど、どこか可愛らしくて、どこかで会った記憶あるな思いながら、目の前が真っ白になっていくのだった。
これが脇役主人公である新と主人公である環の出会いであった。
2026.05.31
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