tori


美少年1


篠と一緒に教室へ帰ると、そのまま入学式開始の時間となっており、講堂に行く事となった。

(講堂って、何だよ…。男同士の恋愛ってだけでもメンタルえぐられるのに、更にミュージカルが出来るくらいの場所で校長の話を聞けと?…規模がデカ過ぎる。普通は体育館じゃないのかい!かなり前にプレイしたゲームだから、全然覚えてないわ…)

篠と横に並びながら歩いていると、周りからの視線もたまに感じたが、クラスにいる時程の強さはない。
すれ違う人間はみな、美形か平凡の率が同じくらい多く、だからだろうか。
篠を見て頬を染めるものはほぼおらず、逆に講堂まで行く道すがらに、美形がわんさかいて、それに対して平凡や同じく美形が騒ぎ立てていた。
ここは女子高かってくらい、男にしては高い声や、やたら可愛い生徒もおり、そんな生徒は一同に男前や美形に頬を染めている。

「あ〜…何か、スゲェわかった気がする。…うん、そうか、俺の認識が甘かったわ」

独り言を言う結愛に、隣からふっと笑いが聞こえた。
篠が本日何度目かの笑みを浮かべる。

「また一人で納得して、完結か。まぁ、言いたい事はわかるし、まだ今はマシな方だ。講堂に行くともっと何倍の数がいるからな」

その言葉を聞いて、結愛の体に悪寒が走る。

「あ〜…、ヤバイな、うん。めちゃくちゃヤバイ。何かさ、本当にここってそう言うのが多いんだな」

勘弁してくれと言わんばかりに、ゲッソリする友人を篠は優しい目で見つめた。
こうやって、普通の会話が出来る事が本当に新鮮で、そして心暖まる貴重な時間に思える。

「ねぇ、知ってる?ここの奥の礼拝堂で、卒業式の日に告白したカップルは永遠に結ばれるんだって」

近くにいた、可愛くて小さい生徒が、またも同じくらいの身長の生徒に声をかけていた。
その言葉を拾ってしまった結愛は、その生徒達に自然と目を向ける。

「あ〜ん、僕も桜鹿会長とラブラブになりたいっ」

結愛はドン引きである。
得体の知れないものを見るかのような視線に、篠が密かに笑いを耐えていたのは言うまでもない。

(訳わかんねぇ…。もう、こいつらの言ってる言葉が理解出来ねぇよ。…高校生にもなって、あ〜ん、って…お前らは女子か!しかも会長とラブラブって…。わかってはいたが相手も男なんだな。)


「マジで頭痛い…」

結愛があり得ないとばかりに唸ると、それを見かねた篠が、慰めるように背中を撫でた。

「ありがとな、夜蔵。おれの癒しは、お前だけだよ」
「俺もだ」

そう言って、互いに笑い合う。
そこに流れる空気は、昔から友達だったかのように温かなものだった。
そんな時、背後から自分を呼ぶ声が聞こえる。
耳に馴染むような中性的な音と、懐かしい感覚が結愛の中で突然生まれた。
咄嗟に振り返ると、今まで見てきた中で一番の美人が目の前に立っている。
しかも物凄く綺麗で、中性的ではあるが女顔、なのに身長はそれなりにあった。
結愛が絶句していると、隣にいた篠が息を飲む。

「あぁ…結愛。ずっと君に会いたかった」

そう言ったのと同時に、篠が小さな声で右京うきょう、と呟いたのだった。

「え?」

結愛がすっとんきょんな声をあげ、右京と呼ばれた美人な生徒と、篠を交互に見た。
隣で表情こそ変えないが、明らかに目の前に登場した生徒に驚きを隠せないでいる。
そんな様子など気にもとめてない、いや、その美少年は結愛しか見えてないのか、周りが明らかにざわついているにも関わらず、我れ関せずだ。
先程とは比べ物にならないくらいの黄色い悲鳴と、結愛の体を目の前の彼が抱き締めるのは同時だった。

「…え、え?ええ!?」

シャンプーの匂いだろうか、それとも香水なのか、ふわりと鼻腔を刺激する甘い香り。
そして、見た目よりもしっかりした体の感触と共に強く抱きしめられていた。

「何度もラインも電話もしたのに、何で連絡してくれないの?朝に部屋にも行ったのに、もうもぬけの殻だし、本当に君がいるのか心配になっちゃったじゃない」

耳元で色っぽく、そして甘く囁かれ、くすぐったいのと、訳がわからないゾクゾクしたものが体を支配した。
こんな美少年に抱きしめられ、甘く良い香りに囲まれ、胸がどきどきしない人間はいないだろう。

「っ…ん」

結愛はあまりのくすぐったさに、自分の声とは思えない程の甘い吐息がもれた。
だが、まさか自分から洩れてるなど気づきもしない。
甘い香りと、美人過ぎる顔、そしてその体に抱き締められていたので、その時は頭が真っ白になっていたのだ。
そんな結愛の声を聞いて、篠の頬が瞬時に赤くなった。
だが、それも目の前の生徒の事で頭がいっぱいな結愛は気づかなかった。

真琴まこと…?」

結愛の口から自然と出た言葉に、一番驚いたのは紛れもない本人だ。
名前など知るよしもないのに、突然頭の中に浮かび上がったのだから。
これがゲームの世界なのか、そう思わずにはいられなかった。

「うん、そう。結愛の大切な幼馴染みだよ」

そう言って、結愛の頬に触れるだけのキスをする。
周囲から耳をつんざく程の悲鳴が聞こえ、結愛の意識は遠退いたのだった。

(もしかして、彼がこのゲームの運命の相手なのか?誰か嘘だと言ってくれ…)


2024.08.10

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