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「俺からすれば普通の事でも、ここでは違うんだろ?何か、ごめんな?夜蔵が美形なのはわかってるんだけどさ、慣れない所で、一人で訳のわからない所に来て、教室に着いたら自然と挨拶してくれるのが嬉しくてな…。つい、調子にのった」
そう言って、悪びれもせずに笑う結愛に、篠こそがほっと一安心した。
もしかして、もう近づかない、話しかけない、ごめんな、そう言われると思ってたから。
やはり彼は、結愛だけは見た目とかじゃなく、そんなの関係なしにちゃんと中身を見てくれてるんだと思うと、心が歓喜してるのが自分でもわかる。
こんなに嬉しかったのはいつぶりだろうか。
だが、それも表に出ないだけで、篠の中では春の風が桜の花びらを連れてきてくれたような心地だったのだ。
「いや、俺の方こそすまない。もう何度も謝ってばかりだが、外部生が本郷で良かったよ」
なかなか分かりにくいポーカーフェイスの顔が、花が咲いたように優しく微笑んだのだ。
これには結愛もビックリするしかなかった。
(うわぁ〜、マジか…!美形だと思ってたけど、夜蔵って本当に綺麗だな。こりゃ、男に好かれるのも納得だし、近寄りがたい高嶺の華だよな…。俺でも抱ける気がしてきたし…って、違うか。)
結愛があまりにもまじまじ見るものだから、今度は篠が驚く番だった。
「あまり見ないでくれるか?そんな可愛い顔をされると、こちらまで照れる」
篠の頬が微かに桜色に染まる。
本当に照れているのがわかり、結愛自身、こっちのが恥ずかしいし、こんな大人しめな美形の目に自分は毒だよな、とも思った。
だが、彼の最後の言葉が気になる。
可愛い顔って何だ、と。
自分が言うのもあれだが、現実でも、この世界でもタイプは違うが、本当に全くのそこら辺によくいる顔なのだ。
格好良い訳でもなければ、何処か一つでも飛び抜けて良いパーツがある訳でもなく、不細工かと言われたら頷けるレベルの。
本当に平凡などこにでもいそうな顔が可愛いとは何だ。
敢えて2回言わせてもらうが、意味がわからない。
(え、いや、可愛いのはお前だろ…。睫毛も長いし、唇もピンクだし、何よりめちゃくちゃ肌は綺麗で細い。それに比べて、小麦色とはいかないものの、去年の夏に焼けました感が半端ない俺。
可愛い訳ねぇからな…)
「はぁ…、ちょっと我を忘れてた。今のは忘れてくれ…」
そう言って、いつも通りの表情に戻った篠に、結愛は大丈夫か、疲れてんじゃねぇのか、と心配していた。
そして、春だから仕方ないか、今のは聞かなかった事にしよう、そう心に決めた結愛だったのだ。
「俺は本郷と友達になりたい」
急に真剣な顔をして、結愛の目を見て言う。
篠の心臓はバクバクと激しい音をたてている。
こんなにも人に執着と言うか、側にいる権利が欲しいなんて思った事がなかったから、どんな顔をしていたらいいのかわからなかった。
だが、それも見た目にはわからないのだが。
結愛はわかっていた。
淡白に見えるだけで、とても優しい人間である事。
そして表情が変わらないように見えて、よく見れば微かに違いがわかる事。
今、自分の言葉ひとつでこんなに不安そうに見えるくらいだ。
きっと他人からしたら違いなど、わかりもしないだろう。
結愛だから、わかるのだ。
こうして語って、言葉を交わして、理解し合った仲だから。
「ごめん。俺はもう友達だと思ってた」
そう言って結愛は、白い歯を見せて笑った。
教室の時点から、俺たち友達だろ、違うのかよ、と篠の胸板に拳を軽くトンとあてる。
そして、その手をそのまま自らの胸にあてて、誇らしげにトントンと叩いた。
それはまるで同志に向けたような、仲間につけたような、これからは友達だからな、とでも言うように。
それを見て、篠は嬉しそうに微笑んだ。
あの可愛く綺麗な顔をして。
「そうか、ありがとう」
高校1日目にして、大切な友達が出来た事がとても嬉しかった篠。
今までは友達と呼べる人間などおらず、ずっと一人でいた。
周りには慕ってくれるクラスメイトや、好いててくれる人間は集まるが、それは友達としてではなく、憧れ、または恋愛対象として。
だからだろう、篠はこの日の事を一生忘れない。
大切な存在と出会えた事を。
この閉鎖された空間が思ったよりも悪くもないと初めて思えたのだ。
何であの時、いつもは自分からなんて声をかけないのに、結愛に挨拶したのか。
その疑問など、今の篠の頭にはなかった。
そして結愛もまた、人生捨てたものじゃないな、と。
突然いたはずの世界から、ゲームの世界に来たが、余計な事を考えずに、もう一度学生生活を楽しむべきなんじゃないか。
仕事に殺されそうだった自分への、ご褒美だと捉える事にしたのだった。
2024.08.09
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