3
「夜蔵くん、だっけ?結愛は僕が部屋まで送って行くから、もう帰って大丈夫だよ」
二人だけの空間だとばかり思っていた篠にとって、突然の真琴の存在にピクリと体が強ばる。
そして、笑顔だが確実に敵意丸出しのこの姫に、苛立ちさえ芽生えた。
まるで当然のように結愛の近くにいる事を許され、学園の人気も、成績も全部、篠とは違って選ばれた人間。
だからこそ、公衆の面前で抱きつくなど、あってはならない。
そのせいで、もし結愛が傷つく事になったら、制裁にでもあったら、犯されるような事になったら、そう考えるだけで腸が煮えくり返る。
やっと出来た大切な存在、それを真琴になど奪わせない。
この学園で平凡かもしれない。
でも篠からしたら、結愛こそが光なのだ。
誰にも彼を傷つけさせない、どんな力を持っても守ってみせる。
他人と関わるのなど面倒だと思っていた。
でも本当は違った。
ただ、裏切られるのが怖かっただけ。
大切な存在を作る事で、弱味になるのを恐れただけだった。
でも、もうそんなの関係ない。
篠にとって、結愛は初めて出来た大切な友達なのだから、どんな事をしてもあの笑顔を守ってみせる、そう思ったのである。
「ね、だから、そんな所に立ってないで、教室に戻りなよ」
再び、姫からの上から目線の言葉に、篠の眉がピクリと微かに動く。
だが、本当に微かなものだから、誰も気づかない。
何故、結愛本人ではなく、お前に言われなきゃならないんだと、そう瞳が語っている。
そんなの全く気にも止めない真琴は、同じベッドにいる結愛を背後から抱き締めた。
「お、おい…、何でそんなにくっつくんだよ」
結愛が不審そうに真琴を見やる。
が、当の真琴はと言うと、気にした様子もなく、背後からぎゅっと引っ付く。
それさえも許さないとばかりに、篠の猫目がスッと細まった。
それを見逃す筈もない真琴は、わざと挑発するように、結愛のワイシャツから覗く項にキスをしたのだ。
「うひゃうっ!?」
色気のない、変な声を上げて結愛がその部分を押さえ、背後にいる男を睨み付けた。
真琴は満足そうに、やってやった感を出し、それは楽しそうにくすくすと笑う。
その様子を見ていた篠の拳はぎゅっと強く握られていた。
唇を噛みしめ、不機嫌をあらわにする姿はなかなか見れるものでもない。
真琴が小さな声で、ふぅん、って呟いたのは誰の耳にも入らなかったのだ。
「本郷、俺が部屋まで送ろう」
篠の言葉に、結愛が素直に頷く。
すると真琴がムッとしたような顔をするも、スマホを取りだし、時間切れかぁ、と言葉にした。
それにより、篠は安堵の息を吐き、結愛の元へと歩み寄る。
真琴は唇を尖らせて、ベッドから降りると、結愛にだけ向けてバイバイと可愛らしく手を振った。
からかわれ過ぎたからか、若干呆れ顔で首だけ動かして応える。
「悪いけど、今日は行かないからな。疲れたから、一人にさせてくれ」
結愛の言葉に、残念とばかりに首を傾げ、仕方ないかぁ、とこれまた気にした様子もなく呟いた。
そんな二人を篠は無表情のまま見つめる。
と言っても、彼の場合はそれが通常運転なのだが。
そして、篠の真横を通った瞬間に、彼にだけ聞こえるように真琴は囁いた。
「僕の結愛を気に入るなんてね…。立場をわきまえないと、いけないよ?人の物に手を出したら、どうなるのか、今回だけは忠告で済ませてあげるからね」
そう言って、誰も見た事もない冷たい目をして、微笑んだ。
それを驚く様子もなく、篠は見送ったのだった。
「覚悟なら、出来てる…」
あまりにも小さな声だったので、その言葉を拾ったものはその場にいなかった。
もう真琴の姿はとうにないのに、篠は暫く廊下をずっと見つめていたのだ。
それをその時の結愛は気づきもしなかった。
自分のせいで、二人の仲が険悪なムードになっている事にも、シークレットキャラである篠を攻略対象にしてしまった事にも。
これがゲームの世界である事も、色々あり過ぎて忘れてしまっていたのだった。
フラグを立ててしまったばかりに、美形攻めの世界に、普通攻めが加わりました。
2024. 08.10
- 10 -
*前次#
ページ:
今日:63 昨日:32 合計:26855