tori


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「あれ…、……テメェのスマホか…」

ほとりの声と共に、ずっとあった重みが消える。
彼がゆっくり立ち上がったのがわかった。

「…やっちまった…」

結愛はその場に寝転んだまま、両手を額の上でクロスして、太陽の光を遮るように目を瞑る。
もう何も考えたくなかった。
何より生きた心地しないし、ずっと胸がムカムカして吐きそうな気持ち悪さが襲ってくる。
人生で一度もスマホや財布を落とした事がなかったから、ショックもそうだが、想像以上に精神的に来るものだと感じた。
よくテレビ特番でやってる警察ドキュメントの人間を他人事のように見てたが、もう自分が被害者になってしまったので、これからは感情移入しそうで怖い。

「……何で、…一人で…来やがった…」

上から聞こえる声は、バカにしていると言うよりも、何かを考えているような様子だった。

「…そうだよな、一人で来るべきじゃなかったんだ」

結愛は今さら後悔しても遅いと、自分に言い聞かせる。

「…バカじゃねぇのか、…テメェ…。…ここを…どこだと思ってんだよ…」

怒りは含まれてないが、それでも結愛を気遣うような感じではなく、意味がわからないとばかりに珍しい物を見るように見ていた。

「あ〜…、うん、ヤバイかなって思ったけど、御子神に会いに来ただけだからどうにかなると思ったんだよ。だから、友達が着いてくって言ってくれたのを蹴っちまったわ…」

乾いた笑いを浮かべ、事の次第を真摯に受け止める。
上からは小さな溜め息が聞こえた。

「…何で…、…テメェが俺に、…会いに来るんだよ…。…部屋、…一緒、だろうが…」

ほとりは全く理解出来ないと、今度は額をに手を当てる。

「…いや、そのさ、…カードキー部屋に置いたまんま出てっちゃってさ。寮長も管理人もいないから、部屋に戻れなくて…」
「はぁ…?…まだ、…授業、…残ってんだろが…」

ほとりの言葉に、ごもっともな意見だとも思う。
それでも退っ引きならない事情がある事を告げた。

「…アァ!?…倒れた、だぁ……っ!?」

先程までと違い、それはもう恐ろしい目をしながら、柄悪く答えるほとりに、結愛は迷惑かけてすみません、とその場に土下座した。

「…っ、…テメェ…、ポヤポヤしてんじゃ、…ねぇよ…」

そう言って、ほとりは何かを投げた。
結愛は咄嗟に受け取ったが、何を投げたのか見るとほとりのカードキーだったのだ。

「…近くまで…送る…。…また、…襲われたら…、……後味悪いからな…。……誤解すんなよ…」

結愛の顔を見ずに舌打ちをし、地面より引き起こされる。
その時に腕を掴まれたが、何ともガッチリした大きな手をしていて、腕なんか筋肉の筋も通ってて、本当に同じ男かと疑いたくなる程に、格好良かった。
男が変な意味じゃなく、惚れる男は彼の事を言うんじゃないかと。

「…俺が帰ったら…、………返せよ…」

そう言って、ほとりは本当に安全な場所まで送ってくれたのだ。
しかも大切なカードキーを結愛に託して。
去って行こうとする背中に、声をかけた。

「御子神」

結愛の声に振り向かないものの、ちゃんと止まってくれる。
その事がとても嬉しくて、口元が緩む。

「ありがとな」

そう伝えると、何のアクションも返事もないものの、彼がわかってくれた事が理解出来た。
そして、また再び歩きだして行ったのだ。
そんな背中を、結愛は誇らしげに、そして眩しそうに見えなくなるまで見つめたのだった。

(夜蔵と言い、御子神と言い、…良い奴が多いな。友達が、同室者がお前たちで本当に良かったよ…。訳のわからねぇ、ゲームの世界なんかって思ってたけど、こいつらはこの世界でちゃんと生きてるんだもんな。ゲームだから、ゲームなんだって、思うのは違うのか…)

結愛はそのまま家に帰って、疲れた体を休める為にベッドに入った。
明日からも大変な一日になる、もうここで生きる意味を理解しよう、そう思って目を閉じる。
うとうとして来た時に、はっと目が覚めた。

「ヤベェ…」

(スマホどうするか…)


2024.08.11

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