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聞きたい事も言いたい事もたくさんあったが、今は一刻を争う状況。
千尋は様々な思いを胸の中へしまい、ポケットからスマホを取り出した。
「委員長に電話するから、少し時間をくれ」
そう一言だけ言うと、彼に電話をかける。
数秒で応答があり、事の次第を説明したのだ。
それを側で聞いていた篠にも緊迫した空気が流れた。
「外部生を御子神が保護したんですか!?はい、…はい、そうですか、安心しました!」
その言葉を聞いて、篠の表情が安堵に染まる。
委員長と電話してる最中の千尋の目にもわかる程に、篠が嬉しそうに笑ったのだ。
それを見て、彼自身も嬉しくなり、電話を切って微笑んだ。
「良かったな、夜蔵。お前の大切な友達は、無事に部屋に着いたそうだ」
更に、その言葉を聞いて、篠は安心して全身から力が抜ける。
そして、ふと思い出したようにスマホにラインが来てないか確認するも、メッセージがなくて少しだけ悲しい気持ちになった。
今日は外部初日と言う事もあり、色々あって倒れてしまったから、ライン出来る状況ではないんだとわかっていても、何だか寂しい気持ちにかられる。
そんな篠に気づいてるのかわからないが、千尋が思い出したように声を出した。
「御子神から、外部生はスマホをF組の的井に持ってかれたか拾われたかで、手元にないらしい。だから、もし外部生のラインが来ても、電話が来ても対応するなと言っていた」
思いも寄らぬ言葉に、篠は唖然とする。
的井と言ったら、あのF組で最悪と呼ばれる破綻者の事だろうか。
「そうだ、あの的井アキラだ。頭が狂ってるとしか思えない、快楽主義者でもあるが、あんなのに捕まったら最後…。俺達から声がかかるまでは、ラインも通話もブロックするんだな」
何て危険人物に渡ってしまったんだ。
ただの不良ならまだしも、アキラは性的な意味で恐れられている強姦魔だ。
証拠も現行犯もないから、野放しになっているが、あんなのに捕まったら、退学するまで快楽攻めにされるだろう。
篠の背中に悪寒が走った。
考えただけでも生きた心地がしない。
「念のため、番号とメアドは変更する事を進める。そして、今日からまた俺が護衛に着くから、暫くは一人で行動するな。俺の部屋で寝泊まりしてもらおう」
動揺している最中に、どんどん事が進んで行く。
やはり千尋が委員長していただけに、手際も対策も早かった。
篠自身もすぐに冷静さを取り戻し、その通りだなと感心する。
そして、一番気がかりな結愛の顔が脳裏に過った。
「それは俺も助かる。だが、本郷はどうなるんだ?俺の事よりも本郷の方が心配で堪らない」
千尋がいる限り、自分の安全は確保されたも同然だが、結愛はいわば丸腰の状態。
とても気が気でなかった。
「あぁ、その事なら問題ない。御子神が護衛につくから、俺よりも安心だろう」
「は?」
目の前の男は何を言っているんだ。
ほとりと言えば、F組最強の男だが、あんな一匹狼で危険な人間が結愛を守れるとは到底思えなかった。
篠は千尋にギロリと睨み付ける。
猫目の目が更に細くなり、キツイ印象を更に濃くさせた。
「そんなに怖い顔をするな。これは極秘だったんだが、御子神は風紀の人間だ。Fにいるのも本人の意向だし、本来ならSにいるべき人間なんだからな…」
もう次から次へと衝撃事実が篠を襲う。
ほとりが風紀の人間だと言うのも信じられないのに、S組にいてもおかしくないとは意味がわからなかった。
「中等部では隠密で風紀活動してたんだが、あいつのあの性格だから、誰も奴に近づかないし、ただの喧嘩好きな危ない人間としか映らないんだろうな。本人も気にしてないし、むしろ風紀委員長は御子神のが相応しいくらいだったけど、F組から移るの面倒だとか言いやがって、結局俺がなっただけなんだよ。でもな、委員長が高等部ではそれは許さないらしくて、今年の副委員長が不在なのはそう言う理由だ。委員長は御子神の素質を偉く気に入ってるから、もう逃げられないと踏んだんだろう。直に発表される筈だ、あいつが副委員長に抜擢された異例の一年だって」
もうどこから突っ込んで良いのかわからなかった。
篠のほとりへのイメージは限りなく悪く、そして結愛から同室だと聞かされた時には眩暈さえ起こしたくらいだ。
それくらい、最悪な人物だと思っていたのに。
それが全部自分の偏見と勘違い、更には周りの噂を鵜呑みにした愚かな判断だったのだと思い知らされたのだった。
何も見ようとしなければ、何も見えないのは当たり前なのに。
2024.08.13
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