tori


風紀委員長様と犬


褐色肌の男が歩くだけで、周りの生徒がお辞儀をする。
それに対しにこやかに微笑めば、それだけで周りの生徒達から野太い歓声があがった。
その褐色肌の男がF組の前で止まり、室内へ入ると、周りから一斉に送られる殺気。
それさえも気にせず、微笑みを絶やさずに歩き出す。
F組の生徒達が男の正体に気づき、一斉に立ち上がった。
すると先程までの殺気が一瞬で消え、次の瞬間にはほぼ全員が90度にお辞儀をしたのだ。
何とも統率のとれた仕草なのだろうか、一面の見渡しが実に良い。
だが、一人だけ立ち上がったままの体勢の人物を見つける。
男はその人物の前で足を止めた。

「おはようございます、的井くん」

そう挨拶すると、この殺伐とした空気に似合わない午後のティータイムのような緩やかな口調で話し始めた。
未だ生徒たちはお辞儀をしたままで、顔を上げる気配すらない。
その異様さが、不気味だった。

「委員長じゃないっすかァァァ!」

語尾を強めに伸ばし、バカにしたように話す男こそ、昨日、篠と玄心の話に上がり、結愛のスマホを持って帰った、的井アキラだ。
F組でも悪い意味で注目されており、変人扱いされている。
快楽主義者で、性的な意味で相手を壊すのを何よりも好む。

「どうして僕がここに来たのか、わかりますか?」

顎に手を添え、小首を傾げる姿は同じ男としてどうかと思うのだが、この目の前の男がすると様になるのだ。
委員長と呼ばれた彼こそ、風紀委員長の犬神(いぬがみ)永久(とわ)。
物腰柔らかく、万人受けしそうな容姿はそれはそれは美しい。
女性的でもない、中性的でもない、でも高貴なオーラに包まれており、育ちの良さが伺える。

「俺にその締まりのイイ尻を掘られる覚悟出来たんすねェェェ」

永久の笑顔がピシリと固まる。
それと同時に、教室の温度が一気に下がった。
お辞儀をする生徒全員が、こいつバカだ、バカなんだ、と心の中で思ったのは言うまでもない。

「ヒャホォォォ!
考えただけで、勃起して来たじゃないっすかァァ!」

興奮し始めたアキラに、全員が青くなる。

「ふふっ、面白い事を言いますね…」

にこやかに微笑んだと思ったら、物凄い速さでアキラが教室の窓へと吹っ飛んだ。
その直後に、パリンと窓の割れる音が響き、外に投げ出された。
それにより、永久に腹を蹴られたのだと悟る。

「僕は卑猥な発言と、目上の人に対して言葉を慎めない人間があまり好きじゃないんですよ」

割れた窓を身軽に飛び越え、血だらけで横たわるアキラの元まで近寄った。

「あなたのそれ、二度と使い物にならくしてあげましょうか?」

上から見下ろす瞳は笑っておらず、軽蔑するような冷たい光を放つ。
腹部の痛みにうずくまるアキラは、全身がゾクゾクするような高揚感にかられた。

「委員長ォォォっ、アンタ本当にイイなァァ!」

傷口から血が流れようが、ガラスが刺さってようが、そんなのどうでも良かった。
ただ、目の前にいるこの男が欲しくて堪らない。

「人の話を聞かない人ですねぇ」

永久は笑顔でアキラの顔を蹴り上げ、再び仰向けに倒した。

「最初に言いましたよね。
僕がここに来た目的を聞いてもらえます?」
「イイっすよォォ、アンタの頼みなら」

起き上がろうとするアキラを当然のように踏みつけ、眩しい程の笑顔を向ける。

「昨日拾ったスマホを返して下さい」
「っ、ソレの為に来たんすかァァ…、嫉妬しちまいそうっすゥゥ」

胸元をグリグリ踏まれて苦しい筈なのに、アキラはどんどん興奮していく。
素直に従う筈ないだろうと誰もが思ったその瞬間、素直にスマホを永久に渡す。

「オレを委員長の犬にして下さいっすゥゥ」


スマホと一緒に、余計なものを拾いました。


2024.08.15

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