学級委員長
玄心が去り、ようやくA組は元の雰囲気へと戻った。
結愛はどっと疲れた様子で、椅子に腰かける。
「本郷、おはよう」
声がする方に振り返ると、昨日友達になった篠の姿があった。
「おう、おはよう」
げっそりと疲れてる様子の結愛に、篠は不思議そうに首を傾げた。
どうしたのか声をかけようとしたら、教室のドアが開く音と共に、気だるそうな声が響く。
「おらぁ…、みんな席へつけぇ。俺様に迷惑かけんなよ〜」
黒渕眼鏡とボサボサの長い髪をひとまとめに結い、無精髭をはやした不潔極まりない容姿に、ヨレヨレの白衣と洋服を着ており、下はクロッカスを履いている。
言わせてもらえば、何日も風呂に入ってないんじゃないかってくらい、全体的に小汚い。
一応これでもA組の担任、不二子雅治だ。
昨日、結愛は保健室にいたから初対面なのだが、インパクトありすぎてドン引きしていた。
(…おいおい、何だよこいつ。教師にも関わらず、めちゃくちゃだらしないじゃねぇか…。全くやる気が感じられない。…教育者の風上にもおけねぇな。)
「今日は外部生いるんだな〜…、まぁ、どうでもいいけど」
あくびをして、教壇近くの椅子に座った。
本当にどうしようもない面倒臭がりなんだろう。
立ってるのもしんどいと言うように、背もたれに背中を預け、だらしなく座っている。
(俺も大した大人になれなかったけど、ここまで腐ってなかったぜ。こいつ同級生くらいだから、余計にイライラするな。しかもディスられたっ!)
クラスメイト達は初日に、嫌悪の悲鳴を上げたがもう慣れた様子だ。
それでも汚い物を見るような視線である事には変わりないのだが。
「お〜、誰か学級委員になる奴いねぇか、とりあえず面倒だから勝手に決めてくれ〜」
そう言って雅治は爆睡し始めた。
おい、それで良いのか、とその場にいる全員が思った事は言うまでもない。
皆がこの場をどうするか、考える中、急に声が上がる。
「俺が学級委員をしても良いか?」
凛とした透き通るような声が、教室内で響く。
聞き覚えのある声だなと結愛が思っていると、周りからワッと歓声が上がった。
「夜蔵くんが委員長なら、凄く嬉しい!」
「話しかけるチャンスが増えるぅ」
「マジかよ、凄いじゃん」
など、様々な声が聞こえて来る。
それに対して篠は、特に気にした素振りも見せずに結愛の方へ視線を向けた。
「本郷、こらからは俺が委員長だ。いくらでも頼って欲しい」
結愛が唖然としてる中、ふっと誰もが見とれる程の笑顔を向けたのだった。
それには周りの生徒が黄色い悲鳴を上げ、何人かがその場でうずくまる。
「え…、あ、お、おう。よろしくな?」
全く意味のわかってないのは結愛だけだった。
学級委員になれば注目はもちろん、大変な仕事がたくさん待っている。
イベントごとにかり出され、生徒会や他のクラブ、そして風紀とも関わり合いになるだろう。
ずっと篠はそれらを避けていた。
誰もが彼に学級委員をして欲しいと推薦したり、声をかけても頑なに首を縦には振ってくれなかったのだ。
それが、どうした事だろう。
結愛が来てから、まるで何かを決心すふように、表舞台にたちあがったかのだから。
周りも篠にとって、結愛の存在が大きくなっている、または結愛が来たから変わろうとしている、などと思う者も現れ始めたのだった。
(守られてる身だとわかっていても、本郷を守らずにはいられない。…何も出来ず、待つだけも、頼るだけもしたくないんだ。)
2024.08.20
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