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「おやおや、これは」
結愛の唇に夢中になっており、篠は背後の気配に気づけなかった。
弾かれたように二人は我に返り、互いの顔を見つめると頬を赤く染める。
自分達は今、何をしていたのかと。
(え、俺、夜蔵と何してた?ちょ、え!?……えぇぇぇぇ!?)
混乱する結愛に対し、未だに照れて嬉しさを噛み締める篠。
「良い所を邪魔してしまいましたかね」
申し訳ないと言いつつも、全くそう思ってないのが伺える。
それと同時に、柄の悪い男達から逃走中であった事を二人は瞬時に思い出す。
「大丈夫ですよ、僕は風紀の者ですから」
そう言って優しい口調の男が安心するように声をかける。
篠はそれでも結愛を自らの体に抱き締め、まるで隠すように起き上がった。
そして背後の人物へ警戒するように睨み付けた。
「とても可愛い仔猫のじゃれ合いでしたね」
穏やかに微笑む相手に、篠は大きく目を見開く。
「風紀委員長…!?」
篠に続くように、結愛は嘘だろって声をあげた。
「え、い、委員長…?」
それはそうだろう。
風紀委員長と言われたら、思い浮かべるのは真面目で近寄りがたいイメージを持っているが、目の前の男はそれとはかけ離れているからだ。
褐色肌と金髪に染められた髪の毛、低いとは言えないが決して高いとも言えない身長。
そして筋肉質ではない、細身な体つき、そのどれもが結愛を驚かせた。
こんなニコニコ微笑んでいる人物が、本当に風紀委員長なのだろうかと。
「小林くんから連絡貰ってますよ。あなた方を保護しますので、このまま一緒に風紀室へ来て下さい」
その言葉に、結愛達は一安心とばかりに安堵する。
そして、千尋から連絡あったと言う事は、彼は無事なんだろうと容易に想像する事が出来た。
「無事だったんだ…」
結愛はずっと気掛かりだった。
自分達を逃がす為に、ボロボロになっても戦い続ける千尋に胸が痛んでいたのだ。
「安心して下さい。例の三人組は小林くんと御子神くんが無事確保したので、事情聴取して処分は後程となります」
「良かった…」
結愛が安堵すると、永久がゆっくりと近づく。
それを見て、何だろうと小首を傾げた。
「ふふっ、君は仔犬みたいに可愛いですね」
永久はまるでペットのように結愛の頭を撫でる。
それに対し、結愛が目をくしゃりと瞑った。
篠は面白くないとばかりに、永久の手から結愛を遠ざける。
「あぁ、すみません。別に取ったりしませんよ」
永久は篠のムスっとした顔を見て、珍しいものが見れたと面白そうに笑った。
「本郷くん、でしたよね?的井くんからスマホを取り返したので、後で僕の部屋へ来て下さい」
その言葉に、結愛が目を輝かせながら永久を見上げた。
本当に仔犬みたいだな、と再び永久が笑った。
「スマホ、良かったな」
篠が優しい顔で結愛の頭を撫でる。
「おう、ありがとう」
結愛が篠の顔を見て、ぎゅっと制服の胸元を掴む。
その行為だけで、篠の心は愛しさがこみ上げて来た。
結愛の手に、手を添えると上から優しく包み込むように握る。
「夜蔵…」
再び二人の間に甘い空気が流れ、互いに見つめ合う。
完全に永久の存在を忘れている。
「本郷…」
篠が甘く囁くと、結愛の体がぴくりと揺れた。
「もう一度、したい」
色っぽく耳元で呟くと、結愛の頬に先程のキスが甦る。
「あ、でも…」
一人、わたわた慌てている結愛の頬に、篠は手を添えると答えを聞く前に再びキスをした。
「んっ」
結愛は驚いたものの、柔かな感触と柄の悪い男達から逃げ切れた安堵と、スマホが返って来た嬉しさで、まぁいいか、なんて思ってしまう。
篠から与えられる触れては離れ、そんな優しい口づけに結愛も自然と受け入れていた。
まだ夢の中のような、ぽーっとした顔をしている様子から、結愛は篠とのキスが現実味ないものと思っているのが見受けられる。
それでも良い、この愛しい存在を独り占め出来るなら、その隙をついて好きなだけ触れよう。
そんな思いが篠を動かせた。
永久がいるのも忘れたように、二人だけの世界を作っていた。
「これはこれは…、小林くんが知ったら大変ですね」
後輩である千尋の心配をしつつも、二人のキスシーンを涼しい顔をして永久は見守る。
百合同士がじゃれ合ってるとしか思えないくらい、微笑ましい光景に口元の笑みは消えない。
だが、それでも心配になるのは、中等部より篠に想いを寄せている可愛い後輩の事だった。
わかりやすくらいに想いを寄せているにも関わらず、全く気づいてもらえないのはあまりにも可哀想だと苦笑いしたのだ。
(さて、彼に何て説明しましょうか。)
2024.08.21
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