供述
「夜蔵くんには少し頭を冷やしてもらいますので、本郷くんからお話を聞きましょう」
永久が目の前のソファーに座り、長い足を組んだ。
その背後では壁に寄りかかり、腕を組むほとりの姿があった。
千尋はあの後すぐに意識を回復し、ドアの出入口付近で仁王立ちしている。
結愛はと言うと、永久の正面のソファーに座っていたのだ。
「小林くんの証言通り、トイレで急にあの三人に絡まれたと言う事で合ってますか?」
「はい、その用をたしてる時に気づいたら小林が背後から殴られてて…」
結愛の言葉を聞き、ほとりがその場にある椅子に座った。
そして近くにあるノートパソコンを手に取ると、カタカタと文字を打ち始める。
どうやら結愛の言葉を記録しているようだ。
千尋の手にはボイスレコーダーが握られており、事情聴取する際は必ず録音している事が伺える。
「その三人とは面識ありますか?」
「いえ、初対面だと思います。それと夜蔵が真琴の親衛隊じゃないかって話してました」
永久がにこりと微笑む。
「さすが夜蔵くんですね、正解です」
「やっぱり、そうだったんですか」
結愛は改めて、篠の頭の回転の早さと人を見抜く力が優れている事に感心する。
「その、…俺と真琴が幼馴染みだから絡まれたんですか?」
結愛の頭に、篠が視聴覚室で語ってくれた事を思い出す。
「そうであり、そうでない、と言った感じでしょうか」
永久の肯定と否定の言葉に、結愛の頭に疑問が生まれる。
「確かに本郷くんは右京くんの幼馴染みで、廊下で接触と言いますか、二人が親密そうにしているのを何人の生徒が目撃しています。ですが、今回はそれが原因ではありません」
永久の言葉に、結愛は明らかに驚く。
「彼らの目的は、夜蔵くんを制裁する事でした」
「は!?え、夜蔵を…?」
「はい、右京くんの親衛隊の数が多いのはご存じですか?その中で夜蔵くんに想いを寄せている生徒と、右京くんとあなたを応援する生徒達の暴走により、今回の事件は起きました」
寝耳に水とは、この事なのだろう。
結愛は全く意味がわからないと目を白黒させた。
夜蔵に想いを寄せていた生徒が何故、真琴の親衛隊にいるのか。
そして、自分と真琴を応援って何だ、と。
「全くわからないと言った様子ですね」
永久は上品に笑った。
それはそれは絵になるくらいに、美しい。
「今回の三人組には恋人がいました。その相手こそが夜蔵くんに想いを寄せている生徒と、きみと右京くんを応援している二人の生徒だったんです」
「それって…」
「ええ、要するに逆恨みと、信仰する故の嫉妬ですね」
(マジかよ、そんな事で俺たちあんなに追いかけられたのかよっ…。しかも小林なんか殴られて、おいおいおい!)
結愛は口をあんぐりと開け、固まった。
「彼らにお願いしたようですよ、どうにかして欲しいと。可愛い恋人にそう言われたら、男として力になりたいと思うのはごく自然の成り行きですが、その行動の仕方が良くありませんでしたね」
永久は小さく溜め息をつき、やれやれと苦笑いする。
「俺は仕方ないですが、夜蔵の事を一度でも好きになった人間が制裁を指示するとか、そんな俺らを守ろうとした小林には何の関係もないのに暴力振るうとか、理解出来ません。あまりにも理不尽です」
結愛は千尋を見て、とても悔しいとばかりに顔を歪める。
視線が合った千尋は一瞬驚いたが、自分の体の事を気にかけてくれた事に戸惑っていた。
決して迷惑とかではなく、護衛をして守れなかった自分に対し、罵声を浴びせる事はあっても、体を心配してくれる人間など今までいなかったからだ。
成功した時はお礼を言うが、失敗した時は手のひらを返したように態度を変え、最悪は恨みの対象にもなる事もあった。
だからこそ、結愛のように風紀としての人間と言うよりは、一人の人間として心配してくれたのは初めてだったのだ。
2024.08.24
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