ライバル宣言
千尋は篠を部屋まで送っていた。
もちろん護衛もあるが、どうしても伝えたい事があったからだ。
「夜蔵、本郷は良い奴だな」
千尋が前を向いたまま、足を止めずに話した。
「ああ、本当に人間としても、男としても素晴らしい」
篠は自分が褒められたかのように笑う。
そして、ふと気づいた。
「もう、外部生とは呼ばないんだな」
その言葉に、悟られないようにドキリと心臓が音を立てる。
「そう、だったか?」
「ああ…」
それを期に、二人の会話は終了してしまう。
しばしの間、沈黙が続いたのであった。
篠は部屋に着くと、お礼を言って室内へ入ろうとする。
それを千尋が口頭で止めた。
「どうかしたのか?」
篠の言葉に、千尋は周囲を見渡す。
人影がない事を確認すると、拳をぎゅっと握りしめた。
「俺は中等部時代から、夜蔵に惹かれていた。ずっと守ってやりたいと思ってたんだ」
その言葉を聞き、篠は微かに驚きの表情をする。
だが、それもすぐに無表情へと戻った。
「…悪い。お俺は小林の事を風紀の頼れる人間としか思えない」
「そうだろうな」
千尋はわかっていたとばかりに相づちをうつ。
「わかっていたんだな。なら、話は早い。俺はこれからもずっと小林を風紀として以上には見れないし、見る気もない。悪いが好きな奴がいるんだ」
真剣な表情で、嘘偽りなく自分の今の心境とこれからの事を告げる。
「ああ、知ってる」
千尋はその言葉を聞いても胸が苦しくなる事も、辛くなる事もなかった。
きっと昨日までの自分なら、ショックを受けていただろう。
だが、今の千尋は心の変化に気づいていた。
「だから、小林の気持ちには答えられない」
「ハッキリと言ってくれて、ありがとう。そして、俺も同じ気持ちだ」
千尋の言葉に、篠が疑問符を浮かべる。
「昨日までの俺は、確かに夜蔵が好きだった。でもそれは恋ではなかったのかもしれない。ずっと一人の夜蔵が俺を頼ってくれる、そんな優越感に浸ってたのかもしれない…」
千尋は申し訳ないとばかりに頭を下げた。
それを篠は謝る必要ないと宥める。
「下に見ていたとかじゃなくて、誰にも頼らない夜蔵が俺を選んでくれた嬉しさに酔ってたんだ。その事をどうしても謝りたかった」
千尋の中で、これを言わないと前に進めないだろうと予感していた。
そしてそれは現実ものとなり、告白した事で清々しい気持ちになったのだ。
「今度こそ、俺にも本当に守りたい相手が出来た。そして、それがお前の恋人だとわかってるのに好きになってしまった。許してくれ、俺は本郷を諦めきれない」
切なそうに顔を歪める千尋に、篠の頭が真っ白になった。
「邪魔をする気はない。でも好きだから、我慢出来るかもわからないけど、それでも本郷を困らせたり、泣かせたりしたくないから、守らせてくれないか?」
「……一つ誤解してるから訂正するが、本郷と俺は付き合ってもなければ、想いを受け止めてもらえてない」
篠の言葉に、今度は千尋が驚く。
「じゃあ、あの時の…」
「好きな奴と二人きりで、理性なんか一瞬で消えた。卑怯だと思ったが、自分だけのものにしたかった…。だから、俺は小林を止める権利も資格もないし、本郷の優しさにつけこんだ最低な男なんだ…」
見損なっただろ、って心無しか切なそうに語った。
「……いや。その気持ち、わからなくもない。俺も今日感じたし、あいつは可愛すぎる」
千尋が自らの頭をガシガシと手でかいた。
「……そうか」
篠は少しだけ間を置いたかと思えば、微かに安堵の表情を浮かべる。
「なら、遠慮なく行かせてもらう。夜蔵、俺は負ける気はないからな」
千尋が宣戦布告を伝えれば、篠は口角を上げて悪戯な笑みを浮かべた。
「ああ、望む所だ」
それにつられるように、千尋もニヤリと意地の悪い笑顔をする。
よく、昨日の敵は今日は友と言うけど、昨日の意中の相手は今日は敵なのであった。
2024.08.25
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