関西弁の男
「どこだ、ここは…」
結愛は辺りを見回すも、ほとりの姿が見えない事に困り果てていた。
「ヤベェ…完全に迷子だ」
41歳の立派な大人にもなって、自分の居場所も風紀室への帰り道すらわからないとは何たる恥じであろうか。
先程まで一緒にいたほとりはもぬけの殻のようにおらず、廊下には同じ扉が何枚もある。
正直、ほとりの後をただ着いて行っただけだから、どっちから来たかもわからない。
何かクネクネ歩いた記憶だけはあった。
だが、本当にそれだけの記憶である。
分かれ道が多数あり、どれを通ればたどり着くのか皆目検討もつかない。
「おんやぁ?随分、毛並みのちゃう仔猫ちゃんやんねぇ」
急に声がしたと思い、振り替えるとそこにはニコニコと笑顔の長身生徒が立っていたのだ。
「仔猫ちゃん言うよりは、仔犬ちゃんのが合ってるんやんな、自分」
関西混じりの言葉、そして目を開けていないのに美形だと感じる男に、結愛は口をあんぐりと開けて見上げた。
「何処の親衛隊や?ここに来たら、アカンよ」
ちょうど良い高さの頭に手を起き、優しくポンポンと撫でる。
「え、親衛隊…?俺の事ですか!?」
結愛は突然の事に驚き、男の手から逃れるように後ずさった。
それを見て、何かを考えるように目の前の男は凝視する。
「見掛けない顔や思っとったん、もしかして外部生なん?」
「あ、はい」
結愛の言葉に、男のオーラが微かに柔らかくなった。
それに気づき、首を傾げる。
「ここへは何しに来たん?」
ほとりとはぐれてしまった事に加え、風紀室へ戻りたい旨を伝えた。
「何や、迷子やったんか。嫌な言い方して、堪忍してや」
安心させるような笑みを浮かべると、その生徒は案内してくれると言うので、そのまま結愛は着いて行く事にした。
だが、警戒心は解かずにいつでも逃げれる距離を保っている。
こう言ってはあれだが、知らない人に着いていってはいけないと教えられてるが、あのまま一人で迷路のような場所を迷うよりはマシだと考えたのだ。
それに前を歩いてる男はミステリアスだが、危険な匂いはしなかった。
「一人で百面相やんな。そない警戒せんと、捕って食ったりせんよ」
困ったように微笑む男に、結愛は申し訳ないと頭を下げる。
「そんな…、送ってくれると言ってくれたのに、嫌な態度をとってる自覚はあるんですが、色んな事があり過ぎて神経過敏になっちゃって…」
俺の方こそ、すみません、と謝ると目の前の男は微かに驚きを見せた。
「もしかして、風紀の人ですか?」
その言葉に、男は頷いた。
それにより、結愛はほっと一安心し、ようやく笑顔を見せる。
するとやはり目の前の男は驚いたように、結愛を見つめた。
「平凡や思ってたんやけど、自分笑うと可愛ぇやん。俺は二年風紀の小友小友権兵衛や」
「あ、俺は一年の本郷結愛です」
丁寧に頭を下げると、権兵衛に感謝を示す。
「ホンマ不思議な子やな」
良い子にするように、頭を撫でる。
それを結愛は擽ったそうに目を瞑った。
「あ〜、アカンで。そない無防備にしたら、食われてまうよ?」
権兵衛が参ったとばかりに、苦笑いをする。
結愛は何の事かわからず、キョトンとして首を傾げた。
「計算やないんか、ホンマ恐ろしいで…」
ぶつぶつと呟き、結愛の心配をし始めた。
「本郷っ」
突然背後から声がし、振り向こうと思ったら、何かに包まれるような温もりが体に感じる。
「これはこれは、犬神の所のワンちゃんやん」
権兵衛がからかうように、ほとりに意地の悪い笑みを浮かべた。
先程のような優しさは一切ない。
「御子神!?」
やっと探していた人物に会え、結愛はほっと息を撫で下ろす。
そして、ほとりにより抱き締められるようにして、権兵衛に見えないよう隠された。
「…テメェ、…どこ、連れてくつもりだ…」
権兵衛へ鋭い睨みをきかせ、完全にキレている。
それを見ても笑みを絶やさずにいる目の前の男は肝が座っていた。
「あ、違うんだっ…。俺が迷子だから風紀室に連れてってくれようとして…」
ほとりのワイシャツをぎゅっと掴むと、慌てて止めに入る。
「…はぁ?…テメェ、自分が置かれた状況わかってんのか…?…風紀室とは逆に向かってんだよ…」
(…………は?え、今、何と…?風紀室とは逆に向かってる…?)
結愛は唖然とし、権兵衛を見上げた。
すると人好きしそうな優しい笑みを浮かべて、権兵衛は口を開く。
「人を簡単に信用したら、アカンで。小学校で習わんかったんか?知らない人に付いてったら、危険や、教わったやろ?誘拐でもされたら、どないすん?ホンマ、怖いわぁ」
「えぇぇぇぇ!?」
結愛が叫んだのは言うまでもない。
2024.08.26
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