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「御子神、申し訳ない。大友がまた問題起こしたようだな」
背後から、凛とした声が響く。
それに一同が一斉に視線を向けた。
「おん、咲ちゃんやん。何や、俺が帰るまで大人しく待ってられんかったん?ホンマ可愛いわぁ」
権兵衛は微かに頬を赤く染め、嬉しそうに笑った。
その笑顔は今まで見せてたような作り物なんかではなく、高校生らしい自然なもので、結愛とほとりは固まってしまう。
「バカいってないで、二人に謝れ。お前はどうしてそうやって誰彼構わすちょっかい出すんだ。あれ程、大人しくしとけと言っただろうが…」
呆れ顔の男に、すぐさま背後から抱きつく。
そして猫のようにゴロニャンと甘えたのだ。
そして言われた通り、ぺこりとお辞儀をして、堪忍やで、と謝って来たではないか。
それだけでも結愛とほとりは驚きなのに、聞きなれない名前に疑問が生まれた。
「大友…?小友じゃないんですか…?」
結愛が権兵衛の名前が違う事を不思議に思う。
意味がわからないとハテナマークを浮かべた。
「お前…、また偽名使ったんだろ。悪い、えっと外部生の本郷だったな?こいつは大友飛鳥、これでも一応会計をしている。そして、俺が会長の桜花咲雨だ」
(え、は…?偽名…!?権兵衛っておかしいと思ってたんだよ、今のご時世に…!騙されたっ!つか、え??ちょ…、どこから嘘だったんだよっ!)
結愛があんぐりと口を開ける。
それを面白そうに飛鳥が見ると、全部や、と声を出さずに答えたのだった。
結愛達と別れ、生徒会室へと続く道で咲雨が飛鳥の頭を叩く。
「また御子神をからかって遊んでるのか。名前で呼ぶのはタブーだと言ってるだろ、本気で嫌われるぞ」
咲雨の溜め息混じりの言葉に対し、飛鳥は特に気にした様子もなく、俺嫌われるんか、とわざとらしくショックを受けたような演技をする。
「あのな、お前の性格にも趣向にも文句は言わないが、いつか本命が出来た時に後悔するぞ」
「咲ちゃんの口から本命やなんて、何や照れるやん。前から言うてるやん、咲ちゃんが俺の想いを受け止めてくれたら、それでえぇって」
飛鳥はニコニコと心の読めない笑みを浮かべる。
それを咲雨がじっと見つめた。
「またそんな冗談ばかり言って…。日頃の行いが悪いと信じてもらえなくなるだろうが。
あまり遊び歩くな」
咲雨は仕方ない奴だと言わんばかりに、再び頭を軽く叩いた。
「そない悲しい事を言わんといて。俺は咲ちゃんがおれば、それで充分なんや」
甘さを含む声でこれでもかと耳元で囁く。
「はいはい、それはどうも」
もはや毎日言われている言葉に、呆れつつも決して邪険にはしないが、肯定も否定もしない返事をする。
「自分、絶対冗談やと思ってるんやろ?アカンよ、アカン。俺はずっと前から、咲ちゃん一筋や」
わざとらしく頬を膨らまし、ふて腐れる。
これもお決まりの台詞だ。
「ありがとう、嬉しいよ」
そう言って咲雨は優しく微笑む。
その笑顔に、飛鳥の心がキュンと痛むのは誰も知らない。
「もうダーリンったら、いつになったらウチのものになってくれんのぉ?」
女の子のような高い声を出して、咲雨の胸元を軽く叩く。
効果音がつくなら、ポカポカポカである。
それを咲雨は口元に笑みを浮かべ、面白そうに笑った。
「誰がダーリンだ」
「え、ダーリンはお気に召さん?じゃあハニーにしたるよ。まぁ、俺は咲ちゃんが恋人になってくれんなら、どっちでもえぇやけど…」
「いや、どちらも遠慮させてもらう」
「相変わらずつれないやん、自分。いつ俺の初恋は報われるん」
毎回このやり取りをする二人は、誰もが認める幼馴染みであり、親友だ。
予測不能な飛鳥の手綱を握ってるのは咲雨で、その彼が一言声をかければ喧嘩中だろうが、行為中だろうがすぐさまに止まる。
最後のストッパーだと言われているのだ。
飛鳥は冷酷非道で、咲雨以外に基本的興味がない。
そんな思いを知らない咲雨は、少しなつかれたくらいにしか思ってないのだ。
少しなんてものじゃないくらい、依存されている事に気づいていなかった。
じわじわと外堀から埋めていく飛鳥。
それが恋愛感情なのか、親友としての独占欲なのかは本人すらわからないものだったのだ。
真実は小説よりも奇なり。
2024.08.27
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