tori


ヒーロー


篠から追い出された結愛はしばらくドアの前にいたが、室内からくぐもった声が聞えたので直ぐさま離れる。
これは多分、自分をオカズとやらにしているんだと気づき、聞き耳を立てちゃいけない、待ってるのもダメだと悟り、教室へと足を運んだ。
その途中に窓から裏庭が見えるのだが、そこには体格の良い男に追われるようにして逃げ回る、小柄な生徒の姿があった。
何気なく見ただけなのだが、何故か胸につっかえたような違和感を感じる。
結愛はしばらくその二人を見ていると、体格の良い男に小柄な生徒が捕まり、口論したかと思うと無理矢理キスをされてるではないか。

「え、何、痴話喧嘩?それともそう言うプレイ…?」

一瞬そんな事を口走っていたが、小柄な生徒が男を撥ね飛ばし、体を震わせていた。
そして目に涙を浮かべ、顔を青くして何かを叫んでいる。
それを男は鼻息を荒くし、ギラギラした雄の目で見ていた。
結愛は体格の良い男のがっついてる感に、かなりドン引きしてしまう。

(あいつ、マジでキモい…。え…、これって同意じゃないやつだよな。つか、ここ裏庭、誰もこいつらに気づいてないし、あの子めちゃくちゃ怯えてないか…?)

結愛はほとりに電話をして、裏庭で生徒が襲われている事を伝える。

『…おい、勝手に行動するなよ…。…テメェが行った所で、何の役にも立たねぇんだからな…』

電話口でほとりが待機命令を促すも、結愛はそれじゃ間に合わないと裏庭へ駆け出した。

「それじゃ、二人を見失うだろっ!」
『おいっ、本郷っ』

ほとりが声をあらげるも聞く耳もたず、そのまま電話を切った。

「めちゃくちゃ怖い、でも見過ごせないわな…」

自分自身に言い聞かせるように呟くと、裏庭目指して走る。

(頼む、間に合ってくれ!そして、俺は絶対痛いのだけは嫌だ。けど、無理だよなぁ…殴られたりしちゃうんだろうなぁ…)

相手の生徒の心配をしつつ、自分にも暴力が及ばない事を願うのだった。


その頃、F組の教室ではほとりが青筋を立ててキレていたのだ。

「…あの糞野郎…、後でぶっ殺す…!」

ほとりのドスの効いた声がその場に響き渡る。
F組の生徒達がワイワイしていたのがピタリと止まった。
辺りは静まり返ると、周りがほとりの機嫌を伺うように視線を向けたのだ。
それが更に苛つき、舌打ちをして教室から出て行った。
本館の裏庭までどう頑張っても10分はかかってしまう。
その間にまた結愛が巻き込まれ、危険に曝されるんじゃないかと肝が冷える思いにかられる。

「…あのバカが…!」

まだ知り合って間もないが、それでもほとりにとっては邪魔な存在ではなかった。
うるさいし、よく話しかけてくるが、結愛の存在は確実にほとりのテリトリーに入っていたのだ。
だからこそ、危険な目に合わせたくない。
結愛が傷つく姿を何故かわからないが、見たくなかった。
ほとりはスマホを取り出すと、永久に電話し、詳細を伝える。
すると千尋にも応援を呼び掛け、永久もこれから現場へ向かうとの事。
ほんの微かだが、安堵したのだった。


(テメェは喧嘩も体力も度胸もねぇだろうが…、勝手にヒーロー気取って早死にすんじゃねぇ…)


2024.08.31

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