3
やっと正気に戻ったのか、少年の肩が先程よりも大きく震える。
そして目から涙をボロボロと流し、結愛に抱きついて号泣したのだった。
「もう大丈夫だ、怖かったな。本当よく頑張って逃げた。…お前は凄い勇気ある男だよ」
結愛はひたすら少年の背中を擦り、励まし続けた。
するとやっと合流した千尋が慌てて駆け寄り、結愛に少年が泣きながら抱きついて震えてる姿を目にし、ほっと安堵の表情を浮かべる。
そして、目の前にフルチンで転がってる男を見て、しばし固まったのだった。
「小林、来てくれて助かったよ」
結愛も千尋の存在に安堵する。
男が意識を取り戻したらどうしよう、そればかり考えていたからだ。
たが、それも杞憂に終わったのだが。
「あ、いや、…本郷が無事で良かった。その生徒は大丈夫なのか…?」
戸惑った様子はあるが、千尋は男が目を覚ます前に、結束バンドで男の両手首と足を縛った。
これで意識を取り戻して暴れても立ち上がる事すら出来ないだろう。
さすがにフルチンを結愛と少年に見せる訳にもいかないので、自らのハンカチで蓋をしてやった。
「大丈夫じゃないから、ちょっと風紀室まで彼を抱えてくれないか?」
結愛の言葉に千尋が頷き、少年の体に触れようとする。
「嫌っ…、触らないでっ…!!」
少年は酷く怯えた様子で、結愛に抱きつく。
そして、頭を左右に振ると震える体で結愛を見上げた。
「本郷くんが良いっ…!本郷くん以外に触って欲しくない…っ!」
顔をくしゃくしゃにして、必死に訴える姿に胸を痛めた。
(そうだよな…、今、強姦されかかったばかりなのに、小林みたいな大柄の男は怖いって…。俺は何で配慮も出来なかったんだ。少し考えればわかるのに…!)
結愛は悔しそうに顔を歪め、少年を抱き締めた。
「ごめん、俺がおぶるから、だからもう泣かないでくれ…」
その言葉に少年は安心し、嬉しそうに微笑むと意識を失った。
突然糸が切れたように体をダランとさせた少年に、結愛が驚く。
「お、おいっ…、大丈夫か!?」
「…安心したんだろう、本郷が連れてってくれるって思ったから」
千尋の言葉に、結愛はほっと一息つく。
「はぁ…、なら良かった…」
「……良い訳ねぇだろうが、この糞が…」
背後からドスの効いた声がし、振り返るとほとりが両腕を組み、立っていた。
「…テメェ、マジふざけんなよ…」
結愛の襟足を掴むと、その場に転がす。
そして、真上から覗き込むように見下ろすほとりの般若のような恐ろしさと来たら、大変なものだった。
「あわわわわ…っ!!御子神、怒んなって…、悪い、悪かったよ…」
結愛が必死で両手をバタつかせて、許しをこう。
「…テメェは弱いんだから、待機組だろうが…。
アホなのか、…あ?」
鋭い目をし、物凄くお冠なのが伺える。
結愛は真っ青になり、ひたすら謝るのだった。
「御子神、落ち着けって。このままここに居ても仕方ないから、説教は風紀室で、な…?」
千尋はほとりの肩に手を置き、宥めるように目の前に立った。
ほとりと結愛の間に入り、そこまでにしてやれ、と言うように。
「…お人好しが…」
舌打ちをし、ほとりは千尋を睨み付けた。
そしてアホらしいとばかりに、転がる男を引きずりながら風紀室へと向かったのだった。
結愛はほっと安堵し、千尋にお礼を言う。
「あいつは怒ってるんじゃない、本郷を心配してるだけなんだ。だから、あとでちゃんと話し合えよ?」
千尋が兄のような優しい笑みを浮かべ、結愛の頭を優しく撫でた。
「そっか、心配、してくれてたんだな…」
撫でられた頭と、ほとりの優しさに胸が暖かくなる。
「小林、本当にありがとう」
「ああ、気にするな」
二人は互いに見つめあって、微笑んだ。
「さて、俺たちも帰るか」
結愛は小柄な少年を背中に乗せるよう千尋にお願いすると、そのまま背負う。
小柄と言っても結愛よりも小さいだけで、決して軽くはないが、それでも自分を頼ってくれた少年を大切そうに抱えて歩いたのだった。
(あの男、マジで許せねえ。人間のクズだわ…)
2024.08.31
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