事情聴取
風紀室の控え部屋にて、少年はベッドで横になっていた。
その側ではもちろん結愛の姿があり、今回の強姦未遂現場の発見報告書をパソコンで作成している。
更に千尋もいて、結愛の華麗なるブラインドタッチに感心していたのだ。
途切れる事のないキーボードを打つ音が響き、まるでその為に生まれて来たのではないかと思うくらい、綺麗な指だった。
じっとそれを見つめ、結愛の横顔と交互に見続ける。
凛とした表情と、すっと伸ばされた背筋の美しさに千尋はうっとりしていた。
きっと今、顔を見られたら目がハートになっている事だろう。
「ははっ、小林見すぎだから」
結愛は面白そうに笑うと、キーボードから手を離し、千尋へ顔を向けた。
その仕草にすら見とれてしまい、顔を赤く染める。
「いや、その…さすがだなって思って」
ずっと見つめていた事を知られて、恥ずかしい思いにかられる。
見事なまでのブラインドタッチに感心していたのも事実、そちらへ話を逸らした。
「あ〜、ありがとう」
結愛は照れくさそうに笑う。
二人の間には穏やかな空気が流れた。
「ん…」
二人とは明らかに違う声がし、少年が目を覚ましたと気づく。
結愛はソファーから立ち上がると、ベッドへと近づいた。
「……、ここは…?」
まだ完全に覚醒してないのか、呂律の回らない声で少年は呟く。
「風紀の控え室だ、安心して良いからな」
優しく声をかける結愛を視界に入れると、少年はその体に抱きつく。
「っ、本郷くん!」
先程の恐怖が甦ったのだろう。
少年は震える体で、結愛の首筋に頭を埋める。
体温を確かめるように、匂いを嗅ぐように鼻をくっ付けた。
それに対し、少しだけ擽ったそうに苦笑いする。
「ここは安全だから、もう怖くないよ」
落ち着かせるよう、背中を撫でた。
その感触にほっと息を撫で下ろし、結愛を見つめる。
くりくりとした大きな目に、小さくて整った顔はとても男にしておくのは勿体ないくらいだ。
これじゃあ、襲われるな、と脳内で思う。
「名前と学年とクラス、言えるか?」
少年はこくりと頷いた。
結愛はノートパソコンを引き寄せると、少年を安心させるように身を寄せ、ベッドに座る。
てっきり離れて行ってしまうと思っていた少年は、嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人を千尋は複雑な表情で見つめていたのだ。
「じゃあ、名前から」
「うん、名前は志摩柚希」
結愛はキーボードに名前を打ち込み、漢字が合っているか確認する。
「うん、合ってるよ」
「そうか、じゃあ、次は学年とクラス」
柚希は結愛の腕に体をくっ付けるようにして、寄り添う。
その姿はまるで恋人同士のようだ。
それに対し、千尋は更に複雑な顔をしたのだった。
「学年は三年、クラスはA組だよ」
その言葉に、軽快にキーボードを打っていた手が止まる。
「え!?先輩なのか!?」
結愛が驚くのは無理ない。
本当に高校生にすら見えない幼い体つきと、童顔。
この学園の制服を着ているから同い年くらいにしか思わず、最初からタメ語を使ってしまった。
とは言え、実年齢では結愛の方が遥かに年上なのだが。
「えへへ、うん。よく言われるんだ…」
申し訳なさそうな顔をして、柚希は笑った。
そしてソファーに座ってる千尋も驚きで目を見開いている。
「あ、そのごめん…、あ、すみません。タメ語で話してたな、ですよね…」
結愛も申し訳なさそうにして、苦笑いをした。
「ううん、本郷くんにならタメ語でも良いよ!僕、凄く嬉しい」
誰もが見とれるくらいの花が咲いたような笑顔を向けた。
本当に、男にしてくのは勿体ないくらいの美少女っぷりだ。
「何故、あの男に追いかけられてたんだ?」
柚希の意思を尊重して、タメ語で話す事に決めた。
「えっとね、その、ずっと…言い寄られてて、断ってたんだけど…、僕にストーカーして来たから、強めに言ったら、襲われちゃった…」
柚希の表情がどんとん暗くなり、腕に巻き付く手が震える。
それを結愛は安心させるよう、上から優しく包み込むように触った。
「あ…」
柚希の頬が赤くなり、目を潤ませて結愛を見つめる。
「後はもう俺が見た事を書くから、もう思い出さなくて平気だからな。…辛いのにありがとう」
結愛の言葉に、柚希の胸がキュキュキュンとときめく。
「本郷くん、格好良い…」
柚希はうっとりとして、囁いた。
それにいち早く反応したのは、ずっと二人を見ていた千尋だ。
「もう、いいだろ」
そう言って、結愛を軽々と持ち上げると、自らの胸に抱き締めた。
「うおっ…、小林!?」
結愛が驚く中、千尋と柚希はバチバチと火花を散らせたのだった。
新たなライバルが増えました。
2024.09.01
- 46 -
*前次#
ページ:
今日:66 昨日:32 合計:26858