無防備にわからせる方法
どれくらいパソコンに集中していたのだろうか、気づけば放課後になっていた。
結愛は時計を見て、固まる。
(えっ!?もう四時なのか!…ヤバイ、どんだけ書類に集中してたんだよっ!)
慌てて辺りを見回すも、風紀室には誰もいなかった。
そして、自分が作ったであろう書類が何枚にも渡り、印刷され置かれているではないか。
「あ〜…、やっちまった。ここは会社じゃないっつうのに…、こんなん見せたら、どう言い訳すりゃいいんだよ…」
そう、結愛の言う通りなのだ。
いくらブラインドタッチが早いからと言え、16歳そこそこの少年がこの大量の書類を一から作成、印刷を一人で行うなど誰が想像出来るだろうか。
平凡が代名詞の自分が、現実世界でそれなりの一流会社の課長を勤めていた。
それだけでも凄い事なのだろうが、ましてや職種がIT関連の仕事だったのだ。
いつも通り仕事をこなす感覚で、向き合ってしまった。
これはさすがに、高校生だと言っても無理があるだろう。
しかも風紀に入った初日に、教わってもないパソコンの機能をあたかも当然のように使いこなしたのだから。
「あ〜…、ヤバイなこれ…」
結愛が独り言を呟くと、風紀室に誰かが入って来る。
その音に気づき、振り返ればほとりの姿があった。
「…お前!?……この量を一人でやったのか…?」
信じられないとばかりに、作成した書類を手に取った。
「…あ、うん、いやぁ〜…、そのな?」
結愛は曖昧な返事をし、どうこの場を切り抜けようか考えていた。
そしてほとりは次々と書類に目を通す。
それが一枚や二枚ではなく、何枚も無言で読んで行く姿に、結愛の全身から冷や汗が流れた。
(うわぁ〜…、これはもうアウトだよな…。御子神の目付きが尋常じゃねぇもん。さすがに不信感抱かせるし、警戒されるだろうよ…。)
「……お前、名前だけは頭良さそうだなって思ってたが、この書類作り…天才過ぎるだろ…」
御子神が結愛の顔を見て、驚きつつも感心したような表情を浮かべる。
普段は睨んでるか、目を細めてるか、上から目線かのいずれかなのに、今の瞳には尊敬の色さえ伺えた。
「え…、あ、そうか…?」
結愛は鳩が豆鉄砲くらったかのような顔をし、しばし固まる。
「…いや、ただの平凡のアホだと思ってたが、こんな才能あるなんてな…。…そりゃ、委員長が欲しがる訳だ…」
何故か褒められた気がしないのは気のせいだろうか。
けなされたような気分に、どっと疲れが出る。
「……確かに、テメェが凄い事も天才なのかもしれねぇが、今日みたいに一人で現場に向かうな…」
ぼそりと小さな声で呟いた。
それを結愛が申し訳ないと頭を下げる。
「……絶対、わかってねぇだろ…」
謝ったのに、何故かほとりの瞳がギラつく。
「え…?御子神…?」
意味がわからず、問いかけた瞬間、そのまま座っていたソファーに押し倒された。
片足は床へ、もう片方の足は背もたれの方へ投げ出され、その間にほとりの膝が入る形となる。
そして肩を押された為に、ソファーの座面に背中が張り付いた。
ほとりの体重が肩に乗り、そのまま覆い被さるように上から見下ろされる。
「ちょっ…、え、何だよ…!?」
慌てて起き上がろうとするも、グッと肩に力を入れられ、ほとりの体重が掛かるため動く事すら許されない。
「……無防備すぎんだよ…」
そう言って、慣れた手付きで結愛のワイシャツのネクタイを下げ、第一ボタンと第二ボタンを外していった。
「み、御子神っ…!?」
あまりにも予測してなかった事態と、首筋が外気にふれられ涼しい空気が肌に当たる。
「…ここに…こんなもん、つけやがって…」
そう言って、ここ、と言われてほとりの指が滑るように首筋をなぞった。
「……男に何度も襲われてんじゃねぇよ、糞が…」
舌打ちをし、なぞった先は篠に昨日つけられたキスマークの跡だった。
それに気づいた結愛は、顔を真っ赤にして、ほとりから視線を逸らす。
「っ、こ、これは…」
唇を噛み締め、恥ずかしそうにする姿はほとりをハッとさせる威力があった。
平凡なのに、妙に色っぽく、大人っぽい仕草に、不覚にも見とれてしまったのだ。
決して白くキメ細やかな女のような肌ではなく、健康的な少年らしい焼けた肌色をしているにも関わらず、数ヵ所に散らばった赤い鬱血した跡がとても淫靡なものに見えた。
2024.09.01
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