tori


噛み合わない二人


新聞部の現像室では、数々の写真を現像していた。
そのどれもが今をときめくニューウェーブな二人、結愛とほとりだ。

「アカン、アカンでぇっ!ホンマ何やねん!平凡くん、大活躍やないの〜」

美樹が鼻息を荒くし、何十枚にも渡る結愛の隠し撮り写真をクリップに吊るして行く。
ぽたぽたと水がそれらから滴り、暗がりの部屋で笑う美樹の笑顔がホラーでしかない。

「これなんかスクープやんっ!こない可愛ぇ子ちゃんにハグとか、自分が変わりたいねん!平凡くんを抱き締めたいわ〜」

見る専門だった美樹だが、結愛のドン引きした顔が今も脳裏に過り、忘れられないでいた。
あんなあからさまな視線をあびたのは何年ぶりだろうか。
この学園にいると、美樹のような人間はスルーされてしまう。
触らぬ神に祟りなしと言う言葉通り、誰も相手にしない、見てみぬふりをするのが鉄板である。
なのに結愛といったら、見事なまでの新鮮なリアクション、関西人には堪らないのだった。

「ハァハァ、この顔なんか堪らんのや〜。クズを見るような眼差し、ほんで蹴りあげ最高やで〜」

柚希を助けた時に、体格の良い生徒のイチモツを蹴った瞬間の結愛の顔は、それはもう美樹からしたら最高の眺めでしかない。

「自分Mやないやけどな〜、目覚めてしまいそやでっ。可愛ぇで、ホンマ可愛ぇ!これで俺のも踏んづけてぇや〜」

もう何がどうなって、こうなったのかわからないが、結愛の行動を密着していたらしい。
永久から連絡をもらい、逐一結愛の情報、風紀の行動と共にしている為、美樹は特別室以外は神出鬼没だ。

「ほんで更に最高なんは、これやっ」

そう言って、今度は先程入手したばかりの八束との護身術稽古風景。
その中で一際神がかった一枚を吊るした。
それは柔道で言う寝技なのだが、八束に組み敷かれて、苦悶の表情をするものだった。
美樹が注目してるのは二人が密着してるものあるが、それだけではなく、結愛の表情が行為の最中のように顔を赤らめ、呼吸を乱し、汗を流して口を半開きにしているからだ。
この現場にいた美樹はシャッターを押しながらも脳内は大変な妄想で埋め尽くされていた。
まさに八束×結愛を想像し、下半身が勃起したのを思い出す。
確実に結愛で抜ける、いやフル勃起したのだから抱く事すら戸惑う必要もなく出来るだろう。
17年間生きてきたが、傍観するだけで性の対象として見た事がなかったのに、運命的な出会いによって、美樹の新たな道がオープンしたのは言うまでもない。

「アカン、決めれへんっ!なぁ、どない思う〜?」

誰と話してるのかと言うと、そんな美樹の行動を影からじっと見てる人物がいた。
こんな暗がりに体半分だけ見せて、あとは全部壁に隠れているのだが、その生徒は新聞部副部長の烏丸からすま一二三だ。
髪の毛はセンター分けのボブで、片目がいつも髪で見えない。
そして表情も暗く、何かを常にブツブツ呟いているのだ。
それを聞き取れる人物はおらず、いつも物陰に隠れているか、半分だけ体を出して様子を伺うのが彼の行動パターンである。
そんな一二三の様子など気にもしないで、年中一緒にいられるのは美樹だけなのだった。
太陽のように明るい美樹、ジメジメと暗い一二三、だいたいこの二人はセットでいつも行動している。

「なぁ、ミニーくん、どの平凡くんが明日の新聞にえぇと思うん?」

ミニーとは一二三を反対から読んでカタカナと漢字を混ぜたもの。
美樹がミッキーで、相方の一二三がミニーだと美樹が銘々した所、どこからともなく浸透していったのだった。

「……………、……………」

一二三の声は全く聞こえないが、口が恐ろしい早さで動いている。
美樹はうんうんと頷き、これやな、と言って結愛がクズでも見るような目で、体格の良い生徒のイチモツを蹴っている写真を指差した。

「さすがミニーくん、自分と趣味同じやでっ!この平凡くんのセクシーショットなん、他の奴等に見せたらアカンつぅ事やろ?今晩のオカズにせぇ、そう言うとるん、わかるで〜」
「…………、………」

一二三が首を振って違うとジェスチャーし、再び物凄い勢いでブツブツ言っているが、美樹は写真に夢中で全く気づかない。
そもそも二人の会話はいつもこうなのだ。
美樹が声をかけるも、一二三がブツブツ言って、それを勝手に解釈して成り立っている。
そしてその後も噛み合わない二人の会話は、夜遅くまで続くのであった。


新聞部の癖が強い。


2024.09.05

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