志摩柚希、行きます
柚希は結愛のクラスの前でウロウロしていた。
それをいち早く見つけたのが、学級委員会から帰って来た篠である。
「どうかしたのか?」
入口に入ろうとする篠の視界へ柚希の姿が当然として入る為、さすがに無視は出来なかった。
「あ…、えっと、僕…本郷くんに用事があって…」
モジモジしながら、怯えるように篠を上目遣いで見上げながら必死な思いで伝える。
「本郷に…?………どんな用件だ?」
先程まで無表情だった顔が、警戒するように目を細めて睨み付けた。
「あ…、えっと……」
その豹変ぶりに、柚希の体がカタカタと震える。
「どこの親衛隊の者だ。もうこれ以上、あいつを巻き込まないでくれ。用があるのは俺なんだろう?」
篠は柚希の肩をトンっと押すと、壁際に追い詰めた。
「っ!?」
急な出来事に柚希の瞳が驚きに見開かれる。
「今度はどんな手であいつを傷つける気だ?お前ひとりか?仲間はどこにいる?すぐに答えないと、その首をひねり潰すぞ」
篠の目は鋭い眼光を放っており、とてもじゃないが話を伝える空気でなかった。
「夜蔵?おはよう、何して…ん」
結愛が道場の稽古から戻り、肩にかけたタオルで汗を拭いながら近寄った。
そして背後からではわからなかったが、篠が珍しく誰かと一緒にいるな、と思ってたらその空気は恐ろしい程にピリピリしているではないか。
「本郷、おはよう。また右京の親衛隊と思われる奴が、お前に用件だそうだ。何されるかわかったものじゃないから、近寄るな」
そう言って、篠は自分の体で結愛を柚希に見えないよう隠した。
「真琴の…?…え、でも…凄い怯えてないか…?」
結愛が言うのも無理はない。
篠の怖さに、柚希はガタガタと震え、目に涙を溜めていたのだ。
「っ!?本郷くんっ…!!」
やっとの思いで、求めていた存在に出会えた喜びと、篠から漂う殺気から逃れるように結愛の体に飛び付いた。
「え??あっ、…志麻先輩!?」
腕に飛び込んで来た人物を目にし、結愛は驚きの声を上げる。
「本郷!?」
篠が慌てて結愛から柚希を引き離そうとすると、柚希は可哀想なくらいに体を震わせて、怯えた。
「夜蔵、大丈夫だからっ。その…、この人は真琴の親衛隊でもなければ、俺に危害を加えるような人じゃないんだ…」
篠の肩を掴み、心配してくれてありがとう、と感謝の思いを伝える。
すると篠もその言葉を聞き、安堵の表情を浮かべた。
「先輩、大丈夫だから。夜蔵、えっと彼はおれの友達で、こないだ俺達制裁されかかって、それで俺を守ろうとしてくれたんだ。悪気はないし、そんなに怯えないでくれ…」
結愛の体にぎゅっと抱きつき、恐る恐る顔を上げた。
目に涙を浮かべ、くりくりした大きな目で見上げる顔は、結愛が相手じゃなかったら鼻血や目眩を起こすくらいの威力がある。
言葉は悪いが、本当に女の子が彼氏を誘うような潤んだ瞳で上目遣いで見つめているのと同じなのだ。
「本当…?」
おずおずと篠へ視線を向けると、先程までのキツい目付きはなくなり、猫目だが申し訳なさそうに頭を下げた。
「その、悪い、です。本郷の知り合いとは知らず、あと先輩だとは思ってなくてタメ語で、申し訳ないです」
「あ、ううん、僕そこ、ごめんね…。含みのある言い方しちゃったみたいで…」
二人がお互いに頭を下げる。
その姿に、結愛はほっと一安心したのだった。
「先に謝っておきます。すみません」
篠がそう口にすると、柚希を通り越して結愛の手を引く。
そして今度は篠が結愛を抱き締めるようにして、背中へと腕を回すと柚希と引き離したのだった。
「え?」
結愛がポカンとしてる中、篠は蕩けるような笑みを浮かべる。
「本郷、あまり俺を嫉妬させないでくれ。お前に俺以外の誰かが触るだけで、気が狂いそうになる」
そう言って、結愛の体をぎゅっと抱き締めた。
石鹸の香りと汗の臭い、そして体臭が混ざり合い、それでも結愛の香りに鼻をすんとさせる。
朝から堂々と人前でボディタッチし、更には自分の汗の臭いを嗅がれ、結愛の顔は真っ赤に染まった。
「ちょ、夜蔵!?」
わたわたしていると、柚希がそれを見て顔をムッとさせる。
「ダメ!本郷くんは僕のヒーローなのっ!」
柚希が二人の体を離れさせ、篠をキッと睨み付けた。
「嫌、触らないでっ!」
弱々しい柚希にしては珍しく、強気な態度に結愛が面食らう。
「それは俺の台詞です。本郷に触らないでくれませんか」
篠の目が据わっているではないか。
結愛はそんな二人を交互に見て、明らかに狼狽えた。
「僕、本郷くんの親衛隊隊長になりたいの」
そんな言葉を聞いて、結愛と篠は口をポカーンと開けて茫然としたのだった。
(ぱーどぅん?)
2024.09.16
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