tori


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「そう言えば前に、そんな事を言ってましたね。別にそれくらい、あなたじゃなくても現場にいたら加勢しますし」

ほとりは特に驚く事も怒る事もせずに、ニコニコ微笑んでいる。

「咲ちゃんの強さに、その毛並みの違う仔猫ちゃんが惚れたんかもしれんなぁ」

飛鳥がふっと艶のある笑みを浮かべた。
それを咲雨が勘弁してくれと顔を歪ませる。
飛鳥と咲雨は幼馴染みだが、咲雨は男同士の恋愛を全く快く思ってない。
決して飛鳥や周りの人間の趣味趣向を否定してる訳ではなく、人は人、自分は自分なのだが、それが己に向くのを極端に嫌がっていた。
それを飛鳥は知ってるからこそ、咲雨にそれ目的で近づくものは排除して来たし、その逆に飛鳥が親衛隊や男を食い荒らしている噂も全くのデマなのだ。
飛鳥がわざわざ咲雨に嫌われるような事をせる筈がない。
ましてや親衛隊の人間を本気ではなく、遊びで相手するなど言語道断である。
咲雨も本気なら理解は出来ないにしろ、本人達の人生だから何も言わないが、遊びだと知れば軽蔑し、飛鳥とは絶縁するだろう。
それらをわかっているからこそ、飛鳥は親衛隊はもちろん、遊び半分で男女関係なく手は出さないのだった。
これも咲雨の隣ずっといたいからと言うものもあるが、飛鳥自信が他人から必要以上の執着を嫌うのも理由のひとつである。
だが、四神に選ばれた以上、遊び人のレッテルを張っていた方が何かと便利なので、男女関係なく喰いまくる男として、誤解させたままにしていたのだった。

「…確か、夏祭りで被るお面を被ってたから、それがチャイルドプレイだっのかもしれないな」
「ほう…そう来ましたか。こちらも正体を隠していれば、あちらもって事なんでしょうね」

永久は顎に手を添え、なかなか考えたものですね、と呟いた。

「動きがあると思うので、心配は一切してませんがほどほどに遊んであげて下さい。正体さえバレなければ、僕は何をしても怒りませんから」

にっこり、にっこりと笑みを深めれば、目の前の三人がやや呆れる。
この状況を一番楽しんでるのはあんたかよ、と。

「あ、それとこれは四神には全く関係ありませんが、大友くん」

名前を呼ばれた飛鳥が永久へと視線を向ける。

「僕の可愛い秘蔵っ子に、遊び半分で手を出さないでくれません?あの子は、この学園の風習に慣れてません。…下手をすれば流されてあなたに惚れてしまう、何て事になってしまったら大変ですからね。その暁には僕が全力で潰しにかかりますので、常に背後には気をつけて下さい」

いつも微笑んでいる永久にしては珍しく、無表情で飛鳥を見つめる。

「そして、あなたの親衛隊が動き始めてますから、もしもあの子に何かあったら只じゃおきませんからね」

目を細める永久に、飛鳥はずっとニコニコして聞いていた。

「永久ちゃんのそないな顔見るん、いつぶりやろ?ホンマ良いわぁ、自分。普段から猫被らんと、そのままでおればえぇのに。遊び半分やない、…本気や、言うたらどないするん?」

ほとりはようやく誰のことわかり、飛鳥の胸ぐらを掴んで殴った。

「…テメェ…!…またあいつに手を出したのか…!」

ほとりの拳が頬に入り、よろけた拍子に背中が壁に当たった。
飛鳥は痛いで、とその部分を手で押さえる。
そして口の中が切れたのか、血混じりの唾を床に吐き出したのだった。

「…この下半身ユルユル野郎…!…糞っ…、マジ、死ねよ…!」

両手の指をボキリと鳴らして、飛鳥の目の前に立つ。
ほとりは青筋を立て、尋常じゃない怒りを現していた。

「面白い事、言うんやな?ほとりちゃんのが下半身、ユルユルやん。自分、俺が気づかん思っとるやろ?街で偉ぁべっぴんさんと遊んどるの、知ってるんやで」

飛鳥はわざと挑発するように、からかうような笑みを浮かべる。

「…はぁ…?………、テメェ…なめてんのか…?…性欲処理する為に使って、何が悪いんだよ…?……腹が減ったら…飯…食うだろ。…あれと、同じだ…馬鹿が…」

永久と咲雨は思う。
それが下半身ユルユルなんだろうよ、と。
女の子抱くのに性欲処理なんて言葉を第一使わないし、例えるにしても食事を選ぶ辺り、本当に節操がない証拠である。

「それがユルユル言うんや。ほとりちゃん、無意識なんやなぁ。そんなん結愛ちゃん知ったら、どない思うんやろ?」

クスクスと楽しそうに飛鳥が笑う。
ほとりは再び飛鳥の胸ぐらを掴んだ。

「……それが、どうした…?……過去の話だろうが」

今にも喧嘩をしそうな二人を、永久と咲雨が口頭で止める。
すると面白いくらいに、ほとりと飛鳥のオーラかピリピリしたものから、普段の者へと変わった。

「大友…、本当にそれやめろと言ってるだろ」

呆れ顔で咲雨は溜め息を吐く。

「御子神くん、彼を相手にするだけ無駄ですからね?人を怒らすのが楽しくて堪らない、構ってちゃんと言う人種なんですから」

永久がニコニコと飛鳥とほとりを交互に見て、仕方ないとばかりに眉を下げた。

「ちょ、違うでっ!?永久ちゃん、構ってちゃんとか俺めっちゃ痛い奴やんか…。それに咲ちゃん、何でほとりちゃんの味方なん?最近、みんな俺の扱い悪うない!?」

飛鳥が慌てながらツッコミする。

「大友、お前…寂しかったのか…?いつも御子神に絡んでたのは、それを埋める為だったのか…」

咲雨が酷く心配そうに眉を下げ、今まで気づかなくて悪いなと同情し、壊れ物に触れるよう優しく肩に手を置いた。

「…え、ちょっ、咲ちゃん!?そな可哀想な子を見るような目で、見んといて!ほとりちゃんに絡んでたのは寂しいから、ちゃうで!!永久ちゃん、何つう事を言うんねん…!」
「……キモ…」

ほとりの一言で更に現状悪化。
三人から、可哀想な視線を送られ、気が気でない飛鳥だったのだ。
その日から、飛鳥を見る目が少しだけ優しくなったのは言うまでもない。


あまり人をからかい過ぎると思わぬ反撃に合います。
こうならないよう、日頃から注意しましょう。


2024.10.17

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