マイエンジェル
永久と保健室へ行く途中に、電話の着信音が鳴った。
それは永久のスマホからで、結愛に一言ここで待機よう言って、少し離れた距離で電話に出たのである。
永久は時々結愛を見て、そして電話相手と何かを話していた。
声が聞こえない程の位置におり、結愛は何気なく奥へ続く細い廊下へと視線をやる。
すると床に赤い斑点のようなものが零れており、不思議そうに首を傾けた。
そして背中を向けてる永久を見て、少しだけその斑点を辿ってみる事にしたのだ。
薄暗い廊下に続くそれは、最初こそわからなかったが、間違いなく血痕だろう。
まさか怪我人でもいるのかもしれない、と慌ててそれを辿ったのだった。
突き当たりにある、空き教室のドアが微かに開いており、恐る恐るそれに手をかけて室内を覗く。
すると更に血痕は量を増し、結愛は慌てて中へ入ったのだ。
閑散としている教室は、以前は使われていたがもう埃を被り、使用されている形跡が一切なかった。
ここは元実験室だったのだろう。
フラスコや人体模型など置かれたままになっていた。
線のように続く血液は、掃除用具入れで止まっていたのだ。
結愛はやっと見つけた痕跡を逃がすまいと、制裁や何らかの事件にでもあって逃げて来たのかもしれないと、勢いよくその扉を開いた。
「っ!?」
すると畳、一畳分くらいの面積に、男が血だらけで踞っているではないか。
慌ててその体に触れると、まだ新しいであろう血液が結愛の手に付いた。
持っているハンカチをすぐそこにある大分使われてない水道で濡らし、顔に張り付いて固まった血痕を綺麗に拭いてやる。
「…ん」
すると男は意識を回復したのか、額から滴り落ちる血が目を通過した瞬間に開けたのだ。
結愛は目に入ったら痛いだろうとそれを拭いて、優しく抱き起こした。
自分の制服が汚れる事も、流れる血が結愛の制服のズボンに垂れる事も気にせずに。
「大丈夫か…!?あんた、どうしたんだよ!?」
結愛はなるべく震動させないように、その体をしっかりと抱き寄せる。
そして決して大きくない、耳障りにならない程度の声で男に問い掛けた。
「……ハッ…、ついに天使が現れるとはな…。俺もヤキが回ったモンだ…」
まだ夢の中にいるのだろうか。
男はユラユラと揺れる瞳で結愛を見上げ、眩しいものを見るよう目を細めた。
「え……?…て、天使……?」
結愛は訳がわからないと動揺する。
どこか頭でも打って、記憶が混乱してるのかもしれない。
そう思い、離れた先に永久がいるから助けを呼ぼうと立ち上がろうとする。
それを男が制した。
「俺を置いて、どこへ行こうってんだ?マイエンジェル…、いや、ハニー」
血だらけの手が、結愛の頬へ延びる。
そして極当たり前のように、その唇へキスをした。
「んっ…!?」
結愛は驚きのあまり、固まり呆然と男の唇を受け止めていたのだった。
程よくついた筋肉、そして大人の色気を放った男前イケメンは角度を変えて、何度も結愛に口付けをしたのだ。
「……お前、可愛いなぁ。名前は?」
やっと唇か離れ、男はご馳走さま、と言って自らの唇をゆっくり舐めた。
「本郷…結愛…」
言われるがまま、素直に自分の名前を答えてしまう。
「良い名前じゃねぇか…。こんな天使に会えるなら、忍び込むのも悪くねぇな」
結愛の唇についた血を拭う。
それにすらピクリと反応を示す姿に、フッと笑みを浮かべた。
「これ、預けておくぜ?次会うまでに、大切に取っとけよ」
男は自らの指輪を外した。
それを結愛の薬指に嵌めたのである。
男のゴツゴツと男らしい手に比べ、平均よりも細い結愛の指にはその指輪は大きい。
だから、嵌めた瞬間にカチリと簡単にサイズを変更出来るようになっており、結愛の指に合わせたのだ。
「これさえあれば、お前は俺のモンだ。浮気すんなよ、ハニー」
再び、結愛に触れるだけのキスをして、男は立ち上がった。
結愛は指輪と男を交互に見やる。
オニキスのついたシルバーリングが窓から反射した光で微かに輝く。
「結愛、お前の看病のお陰で、かなり回復したぜ。また会おうな、マイハニー」
そう言って、色気たっぷり振り撒いた男はウインクし、ガラスの窓を蹴破って出て行った。
その姿を確認出来ない程の早さで、消えて行ったのである。
(……は、え…?……え、何なの?…え、俺、何でキスされたんだ!?……はぁ、誰なんだよ、あれっ…!ちょ、マジ意味わからねぇし、この指輪どうすんだよ!?そもそも窓割る必要あった?絶対にないよなっ。何だあのパフォーマンスは!つか、マイエンジェルとかハニーって何だよ!)
結愛は混乱し、自らの唇を抑えながらパニックに陥った。
「………えぇぇぇぇ!?」
男前イケメンに通り魔的な感じで、唇を奪われました。
2024.10.24
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