マナーは大切
風紀室では永久とほとりの他に、目を覚ました恭介の姿があった。
咲雨との暴力事件の事情聴取をしている最中だ。
「それで、会長があまりにも好みだったので戦いを挑んでみた…と言う事で合ってますか?」
永久がソファーに座り、何故か恭介がその隣で背もたれに腕を回して、永久の顔をじっと見つめていた。
見る角度からすれば、永久の肩に腕を乗せているようにも見える。
「まぁ、そんな感じなんだけどさ。それより、アンタも凄いエロいオーラして、美人過ぎるだろ。会長さんのホクロもヤバかったけど、その小麦色の肌に冷たい視線は反則だぜ」
そう言って、まるで口説くように永久の髪の毛を指でクルクルと回して遊ぶ。
それにはさすがの永久も笑顔が冷えきっており、目が笑っていなかった。
永久の空気から察したのだろう。
一見穏やかに見えるが、心の中では荒ぶる神がいる事を。
「…テメェ…、何、委員長に気安く触ってやがる…」
ほとりが恭介の髪の毛を背後から掴み、ソファーから引きずり下ろした。
「痛っ!?ずいぶん、乱暴な事するじゃねぇの…」
恭介はユラリと立ち上がり、ほとりをギラギラとした目で見据えた。
「…その汚ねぇ手と顔を…誰に近づけやがった…」
ほとりの目が鋭く光り、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「あ〜、…へぇ?風紀委員長さんの番犬してんのか?ご主人様、ワンワンって」
恭介はそれは楽しそうに挑発する。
両手で犬の手を作り、鳴き声まで完璧にして。
「っ、……ぶっ殺す…!!!」
ほとりがポキポキと指の関節を鳴らし、ゆっくりと近寄った。
「望む所だ、来いよ、駄犬」
クイクイっと片手を上に向けて、恭介は手招きをする。
「はぁ…、阿曽沼くん、君は全く反省の色が見えませんね。そして、御子神くんもそんな安い挑発に乗らないで下さい」
永久の一言で、二人の動きが止まった。
声がやや低く、続きをしたらどうなるかわかってるよな、と無言の圧力を感じたからだ。
「とりあえず、懺悔室で反省して下さい。転校早々、会長に殴りかかるなど言語道断ですからね」
小さな溜め息を吐き、恭介のネクタイを掴んだ。
当然ながら、グンっと前のめりになり、永久の方へとよろける。
「阿曽沼くん、今回は多目に見ますが、次に僕をそう言う対象で見たら…手加減しませんからね。覚悟しておいて下さい」
普段は微笑んでいる永久が、グレーの瞳でこれでもかと言うくらいに蔑んだ色を放つ。
その殺気は凄まじく、ヘラヘラした笑みをする恭介ですら緊迫した表情を浮かべたのだった。
そして永久の背中しか見えないほとりですら、寒気を感じたのである。
「僕は下品な言葉や、目上に対しての言葉遣いがなってないのが一番嫌いなんですよ。桜花くんも忠告してくれませんでしたか?」
ネクタイがギリギリと首元を締め上げ、恭介の表情が苦しさで歪む。
その姿を冷たい目で見つめ、異常な程の殺気が室内に漂った。
「君がどうしようが興味はありませんが、僕の貴重な時間を奪った罪は重いですよ?こんなくだらない暴力事件で駆り出される僕達の身にもなって下さいね」
そう冷酷なまでの笑みを浮かべると、恭介のネクタイを離した。
途端に息が出来るようになり、空気が入ってむせ込んだ。
永久はわざとらしく、大丈夫ですか、どうしたんでしょう、等と言葉にしたのである。
「っ、ゴホっ、……委員長さん、マジでヤバイ、ッス、…です」
恭介は慌ててタメ語から、敬語に直した。
それに永久が満足し、まぁ、良いでしょう、と穏やかに微笑んだ。
ほとりは一部始終を見ており、自分では恭介をここまで扱えないと心の中で思ったのだった。
「では、御子神くん、彼を懺悔室へお連れして下さい。くれぐれも言う事を聞いて下さいね。御子神くんを挑発したら、阿曽沼くん、わかってますよね…?」
にっこりと微笑む表情と、言葉がチグハグであった。
イエス以外の返事は受け付けないとばかりに、永久からは黒いオーラが出ていたのである。
マナーは大切にしましょう。
2024.12.31
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