一途
永久よりベッドの上で食事しても良いと千尋は予め聞いていた。
なので、コンビニで買ったスポーツドリンクと玉子粥、そしてフルーツゼリーをサイドテーブルの上に乗せて、ベッドの方まで伸ばしたのである。
病院で使用するようなキャスターつきで、高さを上下に調節出来るタイプだ。
「小林、ありがとう」
(別に病気じゃないし、委員長が上手く言ってくれたのかもしれないな。こんなヘロヘロな状態を説明するのもアレだし、丁度良いか…。それに体が怠くて起き上がるのがやっとだし、ここで食べれるとかありがたいけど、本当に良いのか?)
結愛は頭の中で色々考えながら、受け取った食事を食べ始める。
もちろん、千尋も一緒にいてくれるので退屈していたから気持ちがいくらか安らぐ。
「その、大丈夫なのか?よく事情は知らないが、大変だったんだろ?」
千尋はサンドウィッチとお茶を結愛の食事の横に置いて、真横に来るように椅子に座った。
「え、あ〜、うん…大丈夫」
何の説明をしたのかわからない為に、はぐらかすように返答する。
「最近、風紀の仕事ばかりで、ろくに休む時間もなかったし、本郷には書類だけじゃなく、たくさんの仕事を手伝ってもらってて申し訳ないな…」
結愛の頭を優しく撫でる姿は、優しいお兄さんそのものだ。
弟がいるのだろう、そんな感じの優しい瞳が結愛に向けられる。
「俺も好きでやってる事だし、少しずつだけど護身術で体力もついてきたしな」
どうやら結愛は慣れない激務と、制裁された人間を助けて血まみれになって、そのショックで倒れた事になっているようだ。
千尋がそれとなく語ってくれたので、その方面でいく事になった。
「あまり気にかけてやれなくて、すまない」
そう言って、結愛の口から零れた玉子雑炊を千尋は自らの指で掬う。
そして何気なく、ペロリと親指を舐めたのだった。
(え、舐めた!?俺の口から零れたのを?は、え…?あれぇぇぇ!?)
結愛はプチパニックに陥っていた。
ここに来てから、段々ほだされているような気がしていたが、やはりそうなのだろう。
結愛が千尋を凝視してると、その視線に気づき不思議そうに顔を傾けた。
そして、ようやく自分が何をしたのか気づいたのだ。
「っ!本郷、すまない…っ!!」
千尋は顔から耳までを真っ赤にさせ、頭を深く下げて謝った。
「好きな奴の口元から垂れたものなら、いくらでも舐めれると思ってつい…」
千尋は気づいていない。
結愛に重大告白をした事に。
そして、いくらでも舐めれるなど、変態じみた言葉を吐いた事にも。
「え、お…?もしかして、小林は俺の事を好きなのか…?」
結愛も釣られるように顔を赤く染めて、訊ねる。
「ああ、俺は本郷を恋愛的な意味で好きなんだ」
ハッキリと告げてから、千尋は自分自身の言葉に驚く。
そして結愛も口をあんぐりと開けて、驚いていたのだった。
「あっ!いや、違うんだっ!今のは口走っただけで…っ」
千尋は慌てて立ち上がり、両手をブンブンと振った。
もう顔は茹でタコのように真っ赤で、何が違うと言うんだってくらいの慌てようである。
「っ、……スマン!こんな事を言われたら、本郷が困るだけだよなっ」
ベッドに手を付き、申し訳ないと頭を下げる。
「あ、いや、俺は…その」
結愛はどう伝えれば良いのか、考えていた。
決して悪い事ではない。
人を好きになる事は誰にも止められないのだ。
それを結愛が迷惑だなんて思う筈もなかった。
「急すぎてビックリしたけど、俺なんかを好きになってくれて、ありがとう」
結愛は照れくさそうに微笑んだ。
その姿があまりにも可愛く、千尋の胸がキュンと音を立てたのだった。
「付き合うとかは出来ないけど、小林の事は同じ風紀の仲間として、とても頼りになる存在だと思ってる」
振られる事はわかっていた。
だから、結愛の言葉にショックはない。
「いや、それで良いんだ…。例え振られたとしても好きな事は変わりない。これからも本郷への気持ちはなくならないけど、それでも仲間として一緒にいてくれるか?」
千尋は真剣な表情で語った。
「それは俺の台詞だよ、気持ちに応えられないけど、俺は小林を人間として尊敬してるし、凄く好きだ」
ありがとう、と言って二人は微笑み合い、ほのぼのとした雰囲気だけが続いた。
(今はそれでもいい。いつか、本郷の心に少しでも俺がいられる日が来るのなら…そんな幸せな事はない。お前が好きだ。守りたい、ずっと側にいたいだけなんだ…)
2025.01.02
- 98 -
*前次#
ページ:
今日:130 昨日:32 合計:26922