皇帝のお気に入り
四神のマスクを被った時点で、本名や身元がわかるような言動はしてはいけない。
それが四神しか入れない奥の部屋であっても。
だから、先程から互いに四神名や、神の子と呼んでいたのだ。
当然、結愛はそんな事を知るよしもいので普通に役職名を呼んでしまっていたのだが。
永久から四神に纏わる伝統や暗黙のルールなどを聞き、結愛は今後は四神名で呼ぼうと決意したのだった。
「本日、学園に皇帝が再び侵入しました」
その言葉に誰も驚かなかった。
何故なら飛鳥が喧嘩をし、忍び込んていた事を聞いたからだ。
皇帝の名前を一切口にせずに、だが。
「俺もそれについて、新情報や」
飛鳥が片手を軽く上げ、主張をした。
「朱雀、何かあったんですか?」
玄武がどうぞと手のひらを見せて、飛鳥が話すように促す。
「おん、結構な情報やと思うてん。ペンギンちゃん、どうやら昨日話したチャイルドプレイを探しに来たようやで」
その言葉に、永久は納得したとばかりに飛鳥の顔を見つめた。
「ですから、朱雀がそんなアザだらけなんですね」
顎に手の甲を添え、永久は静かに頷いたのだった。
「そや、たまたまペンギンちゃんと会うてな。少し遊んだってん。俺もボロボロやってんけど、向こうも偉い血だらやったわぁ。あの皇帝のザマと言うたら、笑えるで〜。まぁ、俺もボロボロやったから引き分けやってん」
ほとりと咲雨は学園では詳しい事を聞けなかったので、そう言う事かと納得したのだ。
「多分、その後でしょうね…」
永久が咲雨の膝の上にいる結愛に視線を向ける。
すると他のメンバーもつられるようにして、結愛へと視線を注いだのだ。
咲雨に関しては真横からバックハグのような形になり、結愛を見つめた。
「……え!?何、は…?え…、お、俺……っ!?」
結愛は自らに向けられた八つの目に、動揺する。
そして咲雨の異様な程に近い顔に驚いた。
あまりにも色気漂う美形と、唇の下にあるホクロが何とも言えない格好良さを醸し出しているのだから。
「皇帝が神の子を見初めたのは」
その言葉と同時に、飛鳥、ほとり、咲雨の三人の瞳が大きく見開く。
そして同時に結愛の指へと視線を向けたのだった。
「え、うわっ…、え、何っ!?皆、めちゃくちゃ怖っ…」
結愛は怯えるように、体をビクつかせる。
「っ!?これは…!」
咲雨が結愛の片手を掴み、キラリと光るオニキスのシルバーリングを凝視した。
「嘘…やろ…!?」
飛鳥がその場から飛び跳ねるよう、結愛の足元にしゃがみ込んだ。
そして咲雨の手ごと、結愛の手を掴んだのである。
「いつやねん…!?神ちゃん、いつペンギンちゃんと会ったん…!?」
ぎゅうっと痛い程に掴まれた手が悲鳴をあげる。
あまりの力に、必死で飛鳥の手を払い除けようとするもビクともしない。
「朱雀、やめるんだ。神の子が痛がってる」
そう言って、咲雨が飛鳥の手を振りほどく。
そして、赤く跡のついた結愛の手を優しく撫でたのだった。
「大丈夫か?」
低音で良い声が耳元を霞め、結愛の肩が自然と上がる。
そして頬を真っ赤にし、コクコクと頭を縦に振ったのだった。
「そうか、それなら良かった…」
そう言って優しく微笑む咲雨に、今度は結愛がビックリしたのだ。
こんな綺麗に笑う人だったのかと。
いつも難しい顔をし、近寄りがたいオーラを出しているのが嘘のようだった。
「ん?どうかしたのか?」
まるで弟にするように、結愛の頭を撫でた。
すると再び結愛の顔が赤くなり、ブンブンと首を横に振ったのだ。
それを見ていた永久が鋭い視線を浴びせ、今にも殺さんばかりのオーラを放っていた事にその場にいる者達は誰も気づきもしなかったのである。
「無自覚程、質の悪いものはありませんねぇ…」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟き、面白くないとばかりに目を細めたのだ。
2025.01.04
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