tori


取引


「神ちゃん、堪忍な…?」

その一言の中にたくさんの謝罪が込められているのだろう。
あの日、あの時、帝と対面した四神メンバーで唯一の人物、それが飛鳥だった。
その後に結愛と帝は出会ってしまったのだろう。
防ぐ事が出来なかった思いと強く握ってしまった手を見つめる。
飛鳥は申し訳ないと、結愛の赤くなった手のひらを撫でた。
皇帝が絡むと、どうも自分は冷静さを失う。
そう反省し、飛鳥は下から結愛を見上げた。
その目は悲しみが宿り、何て瞳で見るんだと咲雨が息を飲む程であった。
こんな幼馴染みは知らない。
慈しみ恋い焦がれるような、それでいて大切な者を見るような目はまるで本気だと言わんばかりである。

「そんな顔するなって、大丈夫だからさ」

結愛は飛鳥の肩をポンポンと励ますように優しく叩く。
それだけで、先程までの悲痛そうな顔はなくなり、嬉しそうに微笑む飛鳥がそこにはいたのだ。
咲雨が更にその表情にも驚いたのは言うまでもない。
あの冗談やフェイクばかりしか使わない男が、年相応の表情をし、本気で結愛の言葉に一気一様しているのだから驚かない方がおかしいだろう。

「……っ、……朱雀、お前…」

咲雨が驚きの表情で飛鳥を見れば、それを全て理解したように結愛の前にしゃがみ込む男は吹っ切れたように笑った。

「……そや、本気や」

そう言って、結愛の赤くなった部位にキスをする。
本日二回目の飛鳥から成される王子様キスに驚き、そして二人の言葉の意味がわからず、結愛はただ戸惑っていた。
咲雨はそんな幼馴染みの姿に、嬉しい気持ちと、複雑な心境が入り交じっていたのは秘密だ。
だが、それが何なのか、今の彼には全くわからなかった。

「……」

ほとりはその様子をこれでもかと言う程に温度のこもってない冷たい目で見ていた。
今すぐにでもそよ背中を、無防備に晒す男を葬ってしまおうか、と。
誰が触れて良いと言った。
それは俺のだと言わんばかりに殺気に満ちた瞳を向ける。
そして結愛の指に光る指輪に舌打ちした。

「皆さんもお気づきのようですが、彼は皇帝に狙われてます。そして、あの男なら本気で奪いに来るでしょうね…」

フゥっと小さく溜め息を吐いた。

「本来ならこんな風にお願いするなどプライドが許さないのですが、僕の大切な恋人の為に、一肌脱いでもらえませんか?」

ここに結愛を連れて来れば、自分だけのものでなくなるのは目に見えていた。
だが、永久はそんな事よりも確実に結愛を自分のものにする為には、皇帝から彼を守る事の方が重要だと考えたのだ。
神の子にしてしまえば四神からの寵愛を受け、四人のものになってしまう。
飛鳥もほとりも結愛に惚れているのは知っていた。
二人とも厄介な相手である事も充分理解しているつもりだ。
それでも永久が更に警戒しているのは、何でもそつなくこなす咲雨だったのである。
あの男嫌いな彼が、無意識に結愛を欲しがっているのは目に見えてわかっていた。
それは風紀の能力も勝っているが、そうじゃなく一人の人間として興味を持っているのだ。
これから自覚し始めたら、間違いなく好敵手になるだろう事も。
だからこそ、面白くない。
結愛に自分は安全だと思わせるだけ思わせて、永久がしたようにパクンと美味しく頂くんではないか、と。
そんな気がしてならないのだ。

「名目上は僕の最愛の恋人、ですが…四神で力を合わせて、神の子を全力で守るなら、あなた達がどんな事をしても許しましょう」

その言葉に結愛は頭にハテナマークを浮かべた。

「皇帝に食われるか、それとも敵対するグループに廻されて食われるか、はたまた横から来た人間にいつかっ拐われるとも限りません。ですから、僕はこれから毎日出来る限り神の子の体を慣らせ、誰かに奪われる前に処女を頂こうと思います」

(おいぃぃぃ!!!!委員長、何て事をこいつらの前で言ってくれちゃってるんだよ…っ!いやいやいや、処女は本当に守りたいよ?絶対に指一本でも入れられたくないからな!って、あ…指もう入れられたわ…俺…)

結愛が一人で脳内会議をしてる中、飛鳥とほとりがゆらりと立ち上がる。

「玄ちゃん、それって自分らにも神ちゃんの処女貰う権利ある、言う事やな?」

飛鳥の言葉に結愛と咲雨が同時に、えぇぇぇぇっと声を上げた。

「はい、そうなりますね。危険をおかして守るんですから、それくらいのご褒美がないと本気になりませんよね」

にっこりと笑顔で言っている永久に、結愛が口をあんぐりと開けた。

「……こいつは物じゃねぇんだ…、体だけ奪っても意味ねぇだろうが…」

ほとりがまさかの結愛のフォローに回ってくれている。

「おや、そうですか?心から入る恋愛もありますから、体からの恋愛もあると僕は思いますがね?」

反論に対して、更に反論を重ねる。

「神ちゃんの為なら、ご褒美なんなくても俺は全力で守るで?何で玄ちゃん程の人が、そない既成事実的なんするんか、わからんけどなぁ」

飛鳥の言葉に、咲雨ですら同意件だった。

「あなた方は皇帝の恐ろしさをわかってないんですよ。皇帝と言うよりも皇帝の周りにいる人間と言う意味ですが」

どう言う事だと、皆が永久に注目した。


2025.01.05

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