tori


日本へ1


日本に戻って来た。
久々のこの感覚に紫の頬が緩むのがわかる。

「嬉しいかい?」

ウィルにそう聞かれて、紫は満面の笑みで頷いた。

「ずっと会ってない親友がいるんだ。凄く可愛くて、優しくて、俺の憧れで。やっと会える。ずっとメールばかりだったから、10年ぶりなんだ」

普段大人びているが、余程同い年の親友と会うのが楽しみな事がウィルにも伝わってくる。
言われてみれば、アメリカでもいつも1人で本を読んだり、自分と一緒にいたり、コミュニケーションを敢えてしようのしていなかった事を思い出す。
だからだろう、英語がそこまで得意じゃないのは。

「キースには会いたいと思わないのかい?」

その言葉に紫の笑顔がなくなる。
そして明らかに目線をはずし、気まずそうにしていた。

「父さんは俺の事に興味ないからね。俺だけじゃなくて、家族の事って言うべきかな…」

親の愛情を一番感じたい時期に受けられなかったせいか、紫は父親の事になると妙に消極的である。
だからウィルは自分だけはこの子の味方でいなきゃならない、そう思って手塩にかけ大切に育てて来た。
それだけじゃなく、本当に紫は良い子なのだ。
素直で明るくて、思いやりがあって優しい。
そんな甥が可愛くない筈がなかった。

「ユカ、そうじゃないよ。キースはちゃんとユカの事を思っているよ。その証拠に、メールが俺に届くんだ。ユカはどうしてる、元気にしてるか、そっちでうまくやっていけてるのか、ってさ。親が自分の子供を大切に思わない筈ないよ」

ウィルは紫の頭を優しく撫で、頭にキスをする。
それでも少年の顔に笑みはないものの、少なからず心には響いていたら嬉しいなと思うのだった。


空港に到着するとアメリカとは違い、様々な国の人間とすれ違う。
その多くがアジア人だが、日本の雰囲気が10年前とはかなり違う事に驚いた。
それはウィルも同じで、露出がとても激しいのだ。
一見韓国かと思うようなカラフルで不思議な洋服から、メンズ服を着る女性やメイクしてるであろう綺麗な男性などいて驚きを隠せずにいた。
紫のラインが鳴り、それを読んでいたら、先程まての表情が嘘のように満面の笑顔へと戻る。

「ウィル!いろはが出迎えてくれてる、俺行って来る!」

もういてもたってもいられないんだろう。
ウィルの返事を待たずして、紫が人混みに消えて行ってしまった。

「ユカ!!」

大声て叫んでも人が混雑しており、紫に聞こえる事もなければ、どこに行ったのすら皆目検討つかなかった。
紫は人にぶつかりながらも親友を探した。

(いろは、いろは!何処にいるの?やっと会える!俺の大好きな親友)

綺麗で可愛くて優しくて、誰よりも勇敢な彼。
ずっといろはに憧れてた。
彼のような人間になりたいと。

「ゆかっ!!」

低く男らしい声だが、ウィル以外にそう呼ぶ人間はいろはしかいない。
紫は声の方を振り返った。

「いろはっ!!」

するとドンと大きな障害物にぶつかったと思った瞬間、物凄い強さで抱きしめられた。

「ゆか!会いたかった!!」

耳元で聞けば聞く程、10年前と違った低く男のもの。
耳がじんじんする程に良い声だ。

「いろはぁ…っ!!」

紫は親友の野上のがみいろはの背中に思い切り腕を回して抱きついた。

「元気だったか?ちゃんと顔を見せてくれ」

そう言われて2人の体が離れる。
胸元が目線に行くから、いろはの身長が昔に比べて相当伸びている事がわかった。

「うん、元気だったよ!いろはは元気だっ…、…た…」

そう言葉にした瞬間、いろはと視線が合わさった。
するとあの可愛くて女の子のような彼が、とても格好良くて、でもその中に昔にの面影があり綺麗な顔で笑っていたのだ。

「ゆかは変わらなそうだな、本当あの頃と何ひとつ変わらなくて安心したぜ」

きりっとした眉に切れ長の目、灰色に染められた髪。筋の通った高い鼻に、薄く大きな唇。細い中に筋肉のついた体。
誰もが振り向く格好良さに、紫の目が点になった。

「え?いろ、は…?いろはなの!?」

紫はびっくりして、目を白黒させる。

「ぶはっ!!相変わらず面白いな!俺以外に誰がいるんだよ!」

笑った顔が昔のいろはと重なる。

「いろはぁ!!」

紫はジャンプしていろはに飛びついた。

「うおっ!?ちょ、お前なぁ!!」

そう言うが、とても嬉しそうないろはだったのだ。


2024.08.25

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