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教室へ着くなり、タックルよろしくとばかりに飛びついて来たのは、クラスのムードメーカーこと平の一番の友人である仁科貴一。
いたずらっ子のような悪い顔をし、ゲラゲラと声を出して笑っている。
「へー、おはよ!おっせぇよ、どんだけ俺を待たせんだよ!!」
ギューっと抱きついたまま、早口で喋り続ける貴一。
へーとは、平のあだ名である。
タイラの訓読みするとヘイになる為、伸ばしてへーと呼んでいた。
貴一だけがそう呼んでいる。
「相変わらず激しい奴やなぁ。待ってろなんて言うてへんし、約束もしてへんやろ」
呆れたと言わんばかりに溜息をつけば、貴一はつまらんとばかりに平から離れる。
「関西人の癖にノリ悪いな!そこはノリツッコミだろ!!」
関西人への笑いのクオリティが高いのか、貴一はいつも要求して来る。
関西人みんなが笑いに特化してる訳でもないのだが、貴一の中で関西人イコール笑い、らしい。
「ホンマ、お前みたいなんおるから、関西人がみな、関西弁使わんちゃうか?」
参ったでと再び大きな溜息をついた。
「何おー!!またそうやって偏見ばっか言いやがって、それだから友達いないんだよ!」
ビシっと人差し指で平を指さして、ゲラゲラと楽しそうに笑う。
「おるよ、友達おるやろ!!お前と岸がおるやろ!!」
悲しきかな、平の友人帳には現在2名しか名前が載っていなかった。
「ぎゃははは!!ウケるっ…俺入れて、二人しかいねぇーじゃん!!しかも岸は友達じゃなくて同室者だろ!二人が一緒にいるの見た事ねーし!!」
馬鹿にしたように目から涙をこぼして、盛大に笑った。
これには平もプッツーンときたのか、貴一の頭に手を置き、上から目線で睨みつける。
「ハイハイ、そうですかぁ〜。自分も俺としか一緒おらんし、ベッタリやないの〜。もっと牛乳飲んで、俺を超えなアカンちゃうん?キーちゃん?」
小さい子供にするような仕草に、貴一の低身長コンプレックス刺激。
なりたくて160と言う平均的には低い身長になったのではないのに、何かとつけて平の身長が167と7センチも高いから、馬鹿にしてくるのだ。
しかも、ちゃん付け程、嫌なものはない。
「っ!!へーのアホ、ちょっと俺より高いからって、ちびはちびの癖に!!このっ…エセ関西人!!」
そう言って、貴一は教室から逃げ出すように走り去ってしまった。
「ちょ、待てや!!エセは取り消せ、エセは!!」
貴一に向かって、自分は正真正銘の関西出身である事を伝えたが、遥か彼方。
貴一の姿はどこにもなかった。
そんな二人のやり取りを毎度見せられてるクラスメート達は、クスクスと笑って見守っている。
この学園では珍しく、普通の高校生らしい絡みをする柳達はみんなから好かれていた。
礼儀作法には煩い家庭で育ったお坊ちゃま達は最初こそ驚いたものの、上辺や裏などない正直な二人がお気に入りだったりする。
賑やかで煩い時もあるが、この閉鎖された空間で、普通の高校生らしい彼らがいる事で、自分達も普通でいられるような、そんな眩しい存在なのであった。
「相方、大和くんの事をエセ関西弁とか言って、色んな人間に言いふらしてるけど…大丈夫?」
今来たばかりの貴一とちょうどすれ違ったクラスメートがそう声をかける。
「っ、あのアホ!!教えてくれて、ありがとさん!!」
エセって何やねんと呟きながら、仕方ないと言わんばかりに貴一を捜索するのだった。
もちろん、エセ関西弁と言っているのが冗談な事くらい知っているが、いかんせん。
目立つのが嫌いな平は、歩くスピーカーの回収が毎回大変なのであった。
(友達二人おれば充分やろ。)
2024.09.10
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