tori


元の場所に返して来い


✐バルド…バル宿屋と酒場の店主。身寄りのない秋を拾ってくれた、粋なおやっさん。220cmのガチムチマッチョ。


「返して来い」

やっとの思いで酒場に着いて、バルドに報告。
開口一番に言われた言葉はそれだった。

「へ…?え?…だって、外…雪…」

秋が戸惑うのも仕方ない。
面倒見良く、いつでも優しいバルドの初めて聞く拒絶の言葉。

「犬、猫でも考えもんなのに、人間拾って来るとはどう言う事だ?俺は返して来いって言ったんだ」

バルドのあまりにも冷たい言葉に、秋はまるで自分が言われてるように思えて仕方なかった。

「どこの野郎か知らねぇが、その髪の色は黒魔術師だ。別名、呪術師とも言ってなー、秋、お前は知らねぇだろうが、人を呪い殺すなんて朝飯前なんだよ。関わると禄な事にならねぇ。そいつが起きる前に捨てて来い」

秋はこの世界の事を何も知らない。
魔法も剣も握れない、本当にただのか弱き存在である。
でも自分と重なるのだ。
あの日、この世界に来て、死ぬだけだった秋を助けてくれたのはバルドだけだった。
誰ひとりとして手を差し伸べてもくれない、この黒髪を不気味がり、暴力を振るわれ、瀕死寸前の所を拾ってもらったのだ。
そんなバルドだから、この青年の事も。
そう思っていたが、どうやら違ったらしい。

「……俺が面倒を見るから…だから…」

自分を見捨てるなんて出来ない。

「ダメだ」

このまま彼をほっといたら死んでしまう。

「もっと働くから…」
「返して来い」

お願いだから、見捨てないでくれ。

「バルド…頼む…」

はらはらと目から涙を流し、バルドを見上げる。
50cm以上差のある身長。
まるで大人と子供だ。

「っ……んな顔、するな…」

バルドが顔を背けてしまった。
それを秋は不細工な顔を見たくないからだと思い込み、落ち込む。
だが、バルドの耳は真っ赤に染まり、ただ照れているだけなのだ。
こんな小さくて純粋な瞳から溢れる涙があまりにも美しくて、年甲斐もなく孫程も離れた少年にときめいたのだから。

「…そうだよな。俺なんかを拾ってくれただけてもありがたいのに、こんなお願い…ダメに決まってるよな!わかった、俺、今日限りでここ出てくわ」

にこっと吹っ切れた笑みを浮かべ、バルドに頭を下げる。

「今まで育ててくれて、ありがとう。本当にバルドには救われた。まだ恩返し出来てないけど、必ずするから、待ってて欲しい。ちょっと今から肉とってくるから、それまでこいつをいさせてくれ」

そう言って出て行こうとする秋に、バルドがぽかんとしたまま呆然と立ち尽くす。
そうだ。
そうだった。
この秋と言う人間は、他者の為なら自分など平気で差し出すようなお人好しで、世話焼きなのだ。
バルドがあんな風に言えばこうなる事を失念していた。

「秋」

名前を呼ばれ、振り返る。

「深夜はホール担当」
「え…?」

バルドはガシガシと頭をかきながら、不本意だとばかりに舌打ちする。

「今日から、調理だけじゃなくて、ホールの仕事もやれ。それがこいつを住まわせる条件だ」

その言葉に、秋の目が大きく見開き、頬を真っ赤に染め、バルドを尊敬の眼差しで見つめる。

「こいつが問題起こしたら、お前が面倒見る。俺は一切ノータッチだからな、いいな?」
「バルドぉぉ!!ありがとうっ!!!」

バルドに思い切り抱きつき、何度もお礼を伝える。

「好き!大好き!結婚したい!」

その言葉にバルドの顔が真っ赤に染まる。

「ちょっ…!?おまっ…!」
「ね、ね?俺の事、お嫁さんにしてよ!」

秋からしたら冗談なのだろうが、この世界の男にそれは通用しない。
こんな可愛くて、人懐こくて、元気で素直な青年を嫌がる男はいないだろう。
顔は平凡だが、何せ愛嬌があってとてつもなく小さくて、尽くし癖あるから健気で可愛いのだ。
バルドがあと30歳若かったら、本気で嫁にしてる所だ。
秋には手とり足取り教えて、自分好みなエロい体にしてあげたくて堪らない気持ちにさせる。
時折見せる色っぽい表情と、内から出る艶やかさにたまにぐらりとくるもんだから、どうしようもない。

「嫁は…まぁ、貰い手がなかったらな…」
「えー?今すぐでも良いよ?……俺の体、好きにして良いのに」

秋は決してそんなつもりはない。
夜の誘いではない事くらいわかる。
これは仕事の話だ。
それなのに口の中に唾液が貯まり、ごくんとはしたなく唾を飲み込んでしまう。
この体を好きに出来たら、どんなに良いだろうか。
こんな元気が取り柄な秋が快楽に歪み、とろとろになる姿を想像するだけで勃起しそうになった。
そんな邪な気持ちが芽生え、ちらりと秋を見つめれば、何も気づいてない無垢な笑顔を向けられる。

「汚せねぇよな…こんな子供をさすがに」
「小さいからって子供扱いするなよな」

このやり取りは拾った当初からずっと続いている言わばコントであった。


2025.04.24

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