魔力を失った黒魔術師
✐ルーク・マキシム…紫色髪、紫眼、200cm越えの細マッチョで体中に黒い刺繍の入った無口な黒魔道士。秋のお節介が嬉しくて堪らない。
秋は甲斐甲斐しく、行き倒れていた青年の世話をした。
ガタガタ震える体をたくさんの毛布で巻いてやり、冷汗をかけば水に濡らしたタオルで拭ってあげる。
聞こえてはないだろうが、ずっと話しかけながら、暗い夜を過ごした。
「………?」
ずっと誰かによって温かい声をかけられ、優しく宝物のように看病してくれた記憶と共に青年が目を覚ます。
見た事のない景色。
自分のいた地獄のような廃墟とは大違いであった。
あのまま死ぬものだと思い、限界を超え倒れたにも関わらず、温かな布団と額に乗せられた冷たいタオル。
あんな大雪だったのにどこも体調不良を起こさないのは、このお陰なのだと気づく。
体を起こそうと身動きすれば、自分の手に温かな温もりを感じた。
ふと視線を向ければ、誰かによって繋がれた手。
そこには黒髪の幼い少年らしき人物が自分の手を優しく握りしめ、ベッドに上半身のみを乗せ、下半身は床に座って眠っていたのである。
「………僕」
雪の中で微かに覚えているのは秋が自分を運んでくれ、必死に誰かと言い合っている姿。
そしてうなされながらも途中で意識が戻り、ふとした時に聞こえる優しい声。
まるで割れ物に触れるかのように看病してくれた手が、この小さき少年だったのだと合点がいく。
見た所、転生人なのだろう。
この世界にはいない黒髪と小さくて折れそうな程に細い体。
自分の色も紫がかり不気味だと嫌煙されてはいるが、この少年の方がもっと酷い扱いを受けているだろう。
互いに歓迎される存在ではないからこそ、彼が助けてくれた事に驚きを隠せなかった。
青年が秋を起こさないようゆっくりと起き上がり、興味本位で黒髪に触れる。
想像以上の柔らかさと指通りの良いサラサラ感に、息を呑んだ。
髪の毛を触られてる気配に気づいた秋が涎を垂らしながら勢いよく起き上がる。
間抜けな面をした顔を見て、青年が思わず吹き出したのは言うまでもない。
「っ!あ、…おはよう!!もう大丈夫そうだな、本当良かったよ!って、自己紹介!俺、村田秋。ここのバル酒場で住み込みの仕事してるんだ」
顔を真っ赤にして、涎を拭う姿が何とも幼く見え、青年は必死で笑いを堪える為に顔を背けた。
「えっと…、その、目の前で倒れてたから、俺の勝手な判断で拾って来た!」
未だに顔を背けている事で声が届かないと困るもと感じ、どんどん声を大きくする秋に、青年が体を震わせたのは言うまでもなかった。
そして彼の美しさと言ったら絶句する程で、紫色の髪の毛と瞳がとても神秘的でいて、思わず秋は目が奪われてしまう。
青年から視線を逸らす事が出来ずに、ガン見しながらぽかんと口を開けて放心状態。
色白で線が細く見えるが筋肉もそれなりについており、あまりにも美形過ぎて、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかった。
バルドも男前だと思っていたが、彼も相当な美しさである。
「あー…、秋が僕を拾ってくれたんですか…。何か…すみません。…僕はルーク・マキシムです」
先程までの笑いが嘘のように真顔になり、ぼそぼそと小さな声で自己紹介をする。
人見知りなのか、それとも秋を警戒してるのか、目線が全く合わない。
むしろ避けられてるくらいの勢いで、視界にすら留めてくれないのだ。
秋は教師をしていただけに、様々な生徒達と関わって来たからこそわかっま。
ルークは人見知りではあるが、それ以上に人と関わるのを自らの意思で避けている。
急にバルドの言葉が脳裏によみがえってきた。
黒魔術師、別名呪術師はこの世界では忌み嫌われている存在であると。
「ご迷惑おかけ、しました…。今すぐ…出ていきます…」
心を完全に閉ざしているルークの手をぎゅっと握り、秋はゆっくりと頭を横に振った。
「まだ体が回復してないだろ?バルド…えっとここの責任者には許可をとってあるから、治るまではこの部屋にいてくれ」
バルド曰く、ルークはかなりの魔力を消費しており、完全に体から消えてるそうだ。
それは魔術師にとって最大の武器を無くしたも同然で、ひとりで生きて行くには無理があるとの事。
いつ戻るかもわからない魔力に頼り生き抜く事は困難であり、まだ動ける状態ではないと言う事だった。
寝てる間に少し見に来てもらった時に、バルドが言うてた言葉が気になったのだ。
こいつは死ぬつもりだったんじゃないか、と。
その言葉を聞いて、秋はとても他人事に思えなかった。
自分に重ねるようにルークを見て、バルドに助けてもらったように、助けたい。
その思いでいっぱいだったのだ。
「俺がルークの保護者になるよ」
その言葉にルークの瞳が大きく見開き、ようやく互いの視線が合ったのだった。
2025.05.07
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