tori


13


風紀室にて、柳は重大な場面に直面していた。
決して広くない室内に、ほとりとテーブルを挟んで向かい合う事10分。
ずっと視線を感じるのだ。
ほとりからの圧倒的な強い眼差しを。
そして当然の事ながら、互いに一度も言葉を発してなどいなかったのである。

(えぇ…、これ、どうするん??ずっと見てんだけと!!何、どゆこと!?怖っ、目つき鋭っ!!)

柳はちらっとほとりに視線だけ向ければ、これで何度目か数えきれない数、目が合った。
その度に、ほとりは何か言う訳でもなく、ひたすら鋭い眼光を向けるのだ。
何を考えてるのか全くわからない目線である。
どうしたら良いものか考えているが、全く状況は変わらず。
このままでは埒があかないと、勇気を振り絞ったのだった。

「……あのさ、これ…どうする感じ…?何待ちなのさ?」

痺れを切らせた柳が話しても、ほとりは身動きひとつしないで、視線だけを送ってくる。

(えぇ…、ガン無視じゃん…)

柳の言葉など聞こえないとでも言うように、ほとりは目を細めて睨みつける。
美形がメンチ切ると、恐ろしい事この上ない。

「すまない、小鳥遊!!」

その空気を変えるべく、入って来た人物に柳は感謝した。
神よ、仏様よ、と。

「俺がここまで連れて来るよう言われたのに、忘れて教室に行ったばかりに…」

先程、部屋から一緒に登校した千尋が汗をダラダラと流し、息を切らせ、入って来た。

「チッ……、…てめぇかよ…」

ほとりは千尋を見るなり、心底嫌そうに顔を歪めた。
そして、目の前のテーブルを思いっきり蹴ったのだ。
それに柳は驚き、飛び跳ねる。
そして、あまりの恐怖に千尋へとダッシュしたのだった。

「…え、うわぁっ!?」

千尋は柳が飛びついて来たものだから、慌てて支える。

「っ、小林!!」

柳は思いっきり千尋の片腕を掴んだ。
ふわっと香るシャンプーの匂い。
それにより、千尋の胸が高鳴った

「っ、小鳥遊…?」

気になる子に近寄られ、片腕だけだが触れてもらえて、更にはシャンプーの香りと共に体のぬくもりと来たものだ。
盗み見るように柳へと視線を下げれば、不安そうに揺れる瞳。
更にはキスして欲しいとばかりに血色の良い唇を半開きする姿に、誰が耐えられるだろうか。
最後の方は確実に千尋の願望であるのだが。
恋する男は皆、馬鹿だ。
これ見よなしに、千尋は柳を凝視した。
そんな気持ち悪い視線に気付いたほとりの、明らかに嫌そうな顔と言ったら。

「っ…小鳥遊…!」

千尋が柳を自らの胸に抱きしめるように庇い、ほとりから見えないよう壁側に連れて行った。

「わっ!?え…、あ、小林、ありがとう。あのさ、あいつ、怖いんだけど…いつもあんなんなのか?」

ほとりに聞こえないよう柳は背伸びをして、千尋の耳元で小さく呟く。
その掠れた声と吐息に、千尋の胸が高鳴った。
そして、同時に息子も勃起してしまったのだ。

「つっ、小鳥遊…ちょっと今はまずい!!」

何がまずいのかわからず、柳は千尋を見つめる。
それも不思議そうに、ジーっと。
その視線だけで、千尋は欲望に負けそうになった。
背中に感じるほとりの視線。
これさえ無ければ、自分は柳を押し倒しているだろう。
居てくれて良かった、いや、居ないでいてくれたら良かったのに。
その両方が頭の中で、ぐるぐると回った。

「……気色…悪ぃ…。…ホモ…ばかりかよ…」

ほとりは嫌悪感のこもった声をあげ、千尋に軽蔑の眼差しを向けるのだった。


2024.07.12

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