tori


17


柳をお姫様抱きし、顔が見えないように頭から玄心のブレザーをかけて廊下を歩く。
その凛とした紳士なまでの姿に、誰もが見惚れたのだった。
同時に嫉妬や羨望の眼差しがあるのも確かだ。
柳は千尋から与えられる刺激に、かつて無い程の快楽を感じた。
男なのに、胸で感じるなどあり得ない。
トリップする前、そう言う行為をした女に弄られた事があったが、くすぐったいしかなった。
性感帯のようになるなんて、あってはならないのだ。
何かの間違えだ。
そう思って抵抗しても、あの時の自分は体が喜んでいた。
明らかに自分の意思とは正反対な感情が生まれ始めた事に気付き、本当の意味での絶望を味わったのだった。

「っ…くっ」

悔しい、情けない、恥ずかしい、苦しい、その思いが柳の中でぐるぐる回る。
しかも永久や玄心に見られた。
気持ち良く喘いでる姿を。
見せてはいけない顔をして、喜んでいる様を。

「……」

玄心は腕の中にいる少年の葛藤が手に取るようにわかった。
入学してから、わずか一ヶ月たらずだが、ずっと見て来たのだ。
性とは無縁で、男同士の恋愛などにも興味のなかった柳が、初めて恐怖と快楽を感じたのだから。

「っ…ぅ…」

玄心の腕の中で、小刻みに震える愛しい存在。
色々な事が起こり、対処しきれないのはめいはだった。
それに気付き胸が痛くなる。
何の為に自分は親衛隊隊長になったのか。
お守りすると言っておきながら、安々と何も知らない無垢な体に触れさせてしまった。
そして、己以外の手で快楽に染まる表情を見て、殺意と同時に独占が支配する。
この感情を抱かせるのは自分なのに。
お前なんかが、このお方の心に住まうなど許せない。
小鳥遊柳は私のものだ。
見るな、触るな、同じ空気を吸うな。
恋心なんぞで気軽手にして良い相手ではない。
そう黒い闇が玄心の中で大きく渦巻いたのだった。
出会った瞬間にわかったのだ。
唯一無二の存在、この方に出会う為に自分は生まれて来たと。
織田家と言う硬苦しく、不憫な世界にいるのもこのお方を手に入れる為だったのなら、造作もない事。

「小鳥遊くん…もう、大丈夫ですよ」

玄心の優しい声と共に、そっと降ろされる。
ふわっとした感触で、そこがベッドの上だと理解するのに時間はかからなかった。

「…私しかおりません…。お顔を見せて下さい…」

そう言って、頭にかけてあるブレザーがなくなれば、明るい視界が広がった。
柳の目がぎゅっと閉じられる。
そして、小刻みに震え出したのだ。

「私がついていながら…、誠に申し訳ありません…」

ベッドに乗り上げ、柳の両頬を大きな手で包み込んだ。
壊れ物に触れるように、親指で優しく目元に触れれば、柳の生理的な涙を拭った。

「貴方を大切にすると誓ったのに…」

今にも泣きそうな顔をする目の前の男に、柳の方が胸が痛むのだった。
自分如きで、何でそんな辛そうな顔をするのだと。
この美しい顔が歪むのをどうにか止められやしないか、そう思うのだった。

「俺は…大丈夫だから」

そんな顔をして欲しくなくて、そう伝えるも決して晴れはしない目の前の男の表情。

「そのように強がらないで下さい…。私の前では無理に明るくなさる必要ございませんよ」

玄心は困ったように微笑み、柳の目元に口付けをした。
優しく、いたわるようなそれに、柳も自然と瞼を閉じる。
目元から始まり、鼻先、額と唇が何度も触れてくそれ。
その度に、柳の中で先程与えられた熱が蘇るような気がして、居た堪れない。

「っ…」

千尋に胸を触られた乳首がずくりと疼く。
項に口付けられ、ゾクゾクとしたものが体中をはって、あの時の快楽が忘れられない。
玄心に触って欲しい。
このゴツゴツとした大きな指で、愛撫してもらいたい。

「小鳥遊くん?」

居心地悪そうに体を後退る主君に、玄心は不思議に思う。
その顔を見れば、欲情しているのがわかった。

「っ、小鳥遊…くん」

玄心が目を見開き、驚く。
互いの視線が絡まると、柳は物欲しそうに甘い吐息を洩らしたのだった。

「っ、お、だ…」

甘く囁かれた自分の名前。
唇から覗く赤くて美味しそうな舌。
しっとりと、ぽてっとした唇は千尋のキスのせいだろうか。
妙に厭らしく濡れていた。

「っ…小鳥遊くん…」

そんな柳の姿を見て、玄心の下半身がずくりと反応するのに充分であった。
あぁ、押し倒して、獣のようにガツガツと貪りたい。
いや、初めてだからデロデロに甘やかして、自分無しではいられないくらい快感を植え付けようか。
けど、我慢出来るだろうか。
今にも襲いかかりそうな体を必死に抑えた。

「ぁ…」

柳ははっとして、自らの股間を抑えた。
一瞬だけ見えたのは、そこが完全に盛り上がっており、玄心は目眩を起こした。


2024.07.14

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