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「柳くん、おはようございます」
玄心が柳の存在に気付き、優しい微笑みで挨拶する。
「良く寝られましたか?」
アキラから足を退かし、目の前まで来る。
何故か違和感があり、考えていれば玄心が照れたようにはにかんだ。
「僭越ながら、下の名前で本日より呼ばせて頂きたく存じます。私をもっと近くに感じて頂きたいのです」
もう既に近いと言うか、近すぎると言うか。
柳の心は複雑になるのだった。
嬉しいような、困ったような、そんな感情だ。
(そうか、名字から名前に変わったのか!あんま下の名前で呼ばれないから、照れるな…)
「名前呼びを許して頂けますでしょうか?」
玄心が柳の手をそっと掴み、優しく撫でる。
触り方が少しだけ、ほんの少しだけなのだが厭らしいのは気の所為だろうか。
「あ、…うん、大丈夫っ」
昨日、あれだけの醜態を見せたのだ。
正直、恥ずかしくて玄心をまともに見れない。
あんな求めるように縋ってしまった自分。
この男になら、ほんの少しだけ思ってしまったような気がして居た堪れない。
柳は昨日の事を思い出し、顔が真っ赤に染まる。
とにかく恥ずかしいのだ。
「おや…何と可愛らしいのでしょうか」
玄心が心酔し、柳の腰に腕を回した。
「ん?」
急に引き寄せられ、硬い胸板に顔を埋めるような体制になった。
玄心のつけているお香の匂いが鼻いっぱいに広がる。
「いけませんよ、私以外にそのようなお顔を見せたりなどしては…」
柳ははっとし、ここには自分達以外にも人間が存在していた事を思い出す。
「あ…」
アキラの事を言っているのだろう。
現に玄心の体越しから、アキラが物凄い形相をしてガン見しているのが見える。
ガン見と言うよりも睨みつけている、と言う方が合っているのだが。
(ひぃいぃぃ!!?)
バチリと互いの視線が交わえば、アキラの顔が怖いものから、何か面白いものを見つけたようにニヤリと人相悪い笑みを浮かべた。
「おぉいぃぃ!小鳥遊ぃぃっ、お前のその怯えきった顔もそそるじゃねぇかぁぁ!!!美人に抱かれてるとそれなりに可愛く見えるもんだなぁぁっ!あぁぁ、羨ましいぃぃ!!俺も織田を抱きてぇぇ!!ち◯こ、ツッコミてぇぇぇ!!」
「ひぃいぃ!?何!?何でもありなの!?マジ、怖っ!!?しかも織田を抱く側なの!?身長差えげつなっ!!!」
玄心は涼しい顔をして、アキラを持ち上げると玄関の外へと放り投げた。
「柳くんを見ないで下さい、不用意に近づかないで下さい、金輪際関わらないで下さい、それでは永遠とさようなら」
美しい笑顔とは別に、冷たい声が響く。
柳に興味持たれる事が嫌で仕方ないのだろう。
玄心は力強くドアを閉めると柳を再び引き寄せる。
「毎朝、私が柳くんのお世話をさせて頂きます。まずはお顔を洗わせて頂き…」
柳の顔が若干青くなる。
これから何を言われるのか想像つくからだ。
「自分で洗ってきます!!!」
玄心は猛ダッシュで洗面所へ向かう柳の後ろ姿を見て、残念と眉を下げるのだった。
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