tori


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柳は校舎へ向かう為、玄心の部屋から出れば当然の事ながら、アキラの姿はなかった。
ほっとしたのも束の間、壁に寄りかかっていたのは銀色の髪をした男。

「おや?御子神くん、意外ですね」

玄心が驚いた顔をすれば、ほとりの顔が険しくなる。

「………」

ほとりはだんまりを決め込み、玄心を視界に入れず柳だけを見つめた。
いや、睨みつけたと言うべきだろうか。

(うわぁ…、めちゃくちゃガン見してっけど)

「おはようございます。どうされたのですか?」

玄心が微笑みながら尋ねてもほとりは無言を貫く。
そんな様子を気にした風でもなく、柳を見つめる。

「え…?俺??」

柳は冷や汗をダラダラこぼしながら、顔を引きつらせた。

「……来い。…委員長が、…呼んでる…」

ほとりは一人素早く行ってしまう。

「では、行きましょうか、柳くん」

玄心は優しい笑みを浮べ、さも当たり前のように柳の肩を抱く。
制服越しにでもわかる鍛え上げられた腹筋に、嫌でも意識させられてしまう。
昨日のあの出来事を。
顔を赤くして顔を伏せる柳を1秒でも見逃さないよう、玄心は目に焼き付けるのだった。
戸惑う表情で、何を思っているのか、手に取るようにわかる。
何て可愛らしいのだろうか。
我が主はこんなにも素敵であり、純粋な人間だ。

これから先、多くの人間を翻弄させるだろう。
無自覚に、そして無防備に。
誰にも渡したくない。
閉じ込めて、自分無しでは生きていけなくなってしまえばいい。
その為なら、いくらでも、そうどす黒い感情が芽生えた時にふと視線を感じた。

「大丈夫か?」

柳の心配するような表情と声。
ずっと凝視していたのに、目が合った事に気づけなかった。

「…どうかされましたか?私に何か?」

ニコリと玄心は取り繕うように微笑む。
禍々しい感情を見抜かれないよう、警戒されないように。

「あ、いや…そのさ、よくわかんないけど、ちょっと考え込んでたから…」

これといった何かがある訳ではないが、玄心の様子で何かを察知したのだろう。
歯切れ悪く答えて、何でもないと口にする。

「……元気、もらえますか?」

玄心が苦しそうに言うものだから、柳は勢い良く頷いた。
少しでも自分が役に立てるのなら、そう思ったのが間違えである事に今は気付けなかったのだ。

「では、少しだけ…」

そう言って玄心は柳の腰に腕を回すと、ゆっくりと顔を近づけて来た。

「え…」

柳が呆けている内に、2人の距離がゼロになる。
ちゅっと可愛らしい音と共に、柳の目が大きく見開いた。
触れるだけの口付け。
なのに触れた部分がやけに熱く感じた。
本の数秒なのに、とても長く感じるのは気の所為だろうか。

「……チッ、…また、かよ…」

先に進んでたほとりの舌打ちがやけに近くに感じれば、襟首を思いっきり掴まれた。
玄心に掴まれた腰はそのままだが、頭と上半身だけが反ってしまう。
とても苦しい体制だ。

「……ホモ野郎っ…、てめぇは…来んな…」

ほとりが玄心を睨みつける中、相手を一度も見る事もなく、柳だけを見つめている。

「御子神くん、離して頂けませんか?柳くんがとても苦しそうなので…」

確かに苦しいが、ほとりも加減してくれてるのがわかっているのでそこまでではない。
だが、玄心の空気が何やらおかしい事に気づく。

「……」

玄心の言葉に答える気は一切ないのだろう。
睨みつけたまま、柳を掴む手を緩めなかったのだ。

「そうですか…、貴方の気持ちがよくわかりました」

無言を貫く事こそ答えてだと言わんばかりに、玄心は一人納得する。

「柳くん、少しだけ目を閉じていて頂けますでしょうか」

優しい声で囁き、玄心の大きな手で目を隠される。
視界が真っ暗になったと思った瞬間、何かを振り回したような空気をさく音がなった。

「っ…!?」

ほとりが大きく目を見開き、顔の前に腕を出した。
玄心が柳に目隠ししながら、もう片方の手でほとりの腕を掴んだのだった。
まるで顔を掴まれる事を事前に察知したような動きだったが、ほとりの表情からして咄嗟に動いただけなのだろうが。

「無理矢理はいかがなものかと思いますよ」

ニコリと微笑んで掴んだ手に力を入れる。
まるで握り潰すかのような音がなった。

「誰に触れているのです?その行為は禁止させて頂いております。どうしてもとおっしゃるなら、今すぐにここで決着をつける…と言うのはいかがでしょうか?この御方の親衛隊隊長の私を倒してからにして頂きませんと、お話にならないかと思います。私を連れて行かないと言う事はそう言う事になりますが…いかがでしょうか?」

まるで感情のこもってない、淡々とした話し方に柳はおろか、ほとりまでも驚く。
織田玄心と言う男は怒りを現さない、誰に対しても一定の距離、執着や固執なと一切しない男で有名なのに。
それがどうだろうか、たった一人の外部生に対して、ここまで愛情深く、慈悲深い感情を表すなんて誰が予想しただろうか。


2024.07.27

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