tori


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非常階段には走って来たであろう柳の姿。
慌ててドアを閉めて、階段を早足で降りている。
時折、ちらちらと背後を確認し、踏み外さないように前を見て駆け降りる様子は異常であった。
程なくして、学園の生徒らしき人間が3人程、ドアを開けて飛び込んで来る。
柳の姿を探しているのだろ。
辺りをキョロキョロしていた。
そして柳に気付き、3人が素早く後を追う。
画面が切り替わり、下の階のモニターが映し出され、柳が男に捕まった。
そして必死に逃げようとする中、ナイフを突き付けられ、怯えたように体を震わせる。
何かを話しており、必死に柳は首を左右に振って否定しているようだ。
音声が聞こえず、更には外が暗くて顔を認識する事は不可能である。
だから、それが柳ではないと言われればそうなのかもしれない。
そのくらいの映像だった。
それでも体型や動きからして、柳本人であると断定するくらい遠目から見てもはっきりとわかる平凡さ。
男3人に関してはガタイが良く、筋肉質でいて、柄が悪いくらいしか認識出来なかった。
柳のワイシャツを切り刻み、3人がかりでにじり寄る。
それだけでこれから何をしようとしているのがわかり、玄心と真琴が目を大きく見開いた。

「ねぇ…やめて!嘘でしょ!?だって、なぎちゃんはそんな…っ!」

真琴から普段のふざけた様子は無くなり、慌てたようにほとりと肩を掴む。
3人がかりでよってたかって、柳を強姦していく様をまざまざと見せつけられる。
可哀想なくらい柳が抵抗し、泣き叫んでもそれは止まらず、逆に男達の興奮を煽っただけに終わってしまった。
男の性器が柳の蕾に宛てがわれた瞬間、最後の力を振り絞って蹴り上げる。
そして、5階の高さにも関わらず、手すりに足を乗り上げ、男達の方を振り返った。
そのまま柳は下に飛び降りたのだ。
慌てて止める男達を他所に、何の戸惑いもなく、飛び降りたのだった。

「……っ!?」

静まり返る室内に、玄心と真琴の苦しそうな息が洩れる。
そして何より、一番びっくりしたのは柳自身であった。

(え…?ちょっと待って…?もう一人の俺って、こんな悲惨な過去、え…?)

一人呆然として、未だに何が起きたのかわからずにいた。

「…、っ、どう言うつもりでしょうか?隠す隠さないの前に、これを柳くんに見せるとはどういった神経をなさっているのですか!?」

玄心が大声を出した。
柳にモニターを見せないよう、自分の体を盾にして。
ほとりによりも永久に向けて睨みつける。
そして真琴が柳を驚かせないよう、触って良いのかわからず、けど触れるか触れないかの距離で寄り添った。

「決まってんだろ!こいつが記憶喪失のふりしてるから、改めて思い出させてやってんだよ…!」

永久も永久で玄心の怒りに触発され、大声を出す。

「だからって、貴方は…っ!!」

玄心が口にした瞬間、柳が膝から崩れ落ちた。

「なぎちゃん!?」

真琴が慌てて支えるも間に合わず、柳の心配をし、同じようにしゃがみ込む。

「え…?なに、あれ?…俺って、あんな事あったの…?」

柳の困惑に、永久の眉間にしわが寄る。

「自殺したって…こと…?」

自分の置かれた状況を口にし、柳は嘘だろって体を震わせた。
その様子に疑惑ばかりだった永久の目が見開かれる。

「…小鳥遊…、お前、本当に記憶…」

そう言った瞬間、玄心が勢い良く永久を殴った。
頬に食い込む拳、それを避ける事はなく正面からくらった永久は後ろに吹っ飛んだ。

「私は貴方を許しませんっ!!こんなっ、こんな事をして…っ、柳くんがどんな気持ちだったか、記憶から消したかったから忘れた事をまた思い出させるだなんてっ…!」

柳は体を震わせて、涙を流した。
それを見て、真琴と玄心が驚愕の表情を浮べる。
それは永久とほとりも一緒であった。
あの穏やかで優しい少年の初めて見せる涙。
それを見て、真琴と玄心の顔が般若へと変貌したのだった。

(俺、もしかして、もう元の世界戻れないかも!?本当の俺ってもしかして意識不明とかになったって事だよな!?これで言うと!!)

そんな事を思い、柳はポロポロと涙を流し続けたのであった。
悲しみは悲しみだが、トリップ前のもう一人の自分の置かれた状況に同情したとか、可哀想と言うよりも、この世界で生きていかなきゃいけない事に気づいてしまった涙だったのだ。

(たかがゲームの世界だと思って、軽く見てた…。そっか…、俺がここにいるのって、現実世界がもう生きてないかもしれないって意味なのか…)

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