tori


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篠が柳の居室へ向かえば、ちょうど部屋から玄心が出て来た。
2人は目の前で遭遇するも別段驚いた素振りすらない。

「おや、夜蔵くんではないですか。柳くんに何のご用でしょう?」

篠はアンドロイドと言われてるくらいだから、玄心も警戒と言うよりも何の目的があってここに居るのか疑問をなげかける。
自分の意思で来るような人間ではないし、概ね永久の命令に従ったのだろうと容易に想像出来た。

「今回の強姦未遂により、小鳥遊柳は風紀の保護下となった」

それだけ伝えるとまるで玄心が見えていないかのように、ドアの前に立った。
その視線の先にあるのは柳の部屋へと続く入口だけだ。

「…柳くんの前で、そう言う直接的な言い方はご遠慮下さい」

玄心の言葉に、それのどこがいけないのだと言わんばかりの表情をする。

「思い出したくない過去は誰にだってございます。柳くんは特に…」
「俺には全く無い」

篠の即答に、玄心は苦笑いする。

「夜蔵くんに無くても柳くんや他の方々は違います。全てのモノサシを貴方基準で決めるのはよろしくないかと存じますよ」
「何が言いたい?もっと明確にしてくれないか」

わかりやすく伝えたつもりだったが、篠には全くもって理解出来ないらしい。

「少々、かんに障る言い方しますが、全ての人間が夜蔵くんのように割り切れる訳でも、動じない訳でもございません。皆さん、感情と言うものがあり、様々な考えをもって生活されているのです…」

篠の顔を見ながら、玄心はやむを得ないとばかりに口にする。

「感情。そんなくだらない物に配慮する意味がわからないな」

冷たい言い方に見えるが、篠に悪気は全く無い。
むしろ、本当に理解出来ないと思っているくらいなのだ。

「なかなか難しいですね…。私は嫌いではございませんよ、夜蔵くんのその性格。ですが、もし柳くんを傷つけるような事がございましたら…その時は容赦致しませんので悪しからず」

ふふっと華が笑うような美しい笑みを浮かべるも、玄心からは黒く禍々しいものが滲み出ていた。

「そうか。ならば、その時は俺も全力を尽くそう」

何も映さない瞳で玄心を見つめる。
篠は他人の言動に興味がないよだ。
あるのは風紀として学園の平和を守る事のみ。
正義感が強い訳でも、守りたい何かがある訳にもない。
風紀副委員長に任命されたから、その職務を全うするまで。
篠にあるのは忠誠心でも何でもなく、偶然永久の目にとまり、たまたま副委員長の座が空いていたから任命されただけの事。
これがもし生徒会なら、その任務を全うしただろう。
逆にただの一般生徒ならば、何も考えず卒業の為に勉学に勤しんだまでだ。

「本当に、御子神くんとは正反対ですね。彼はあぁ見えて、とても情に厚く、感情的になりがちですからね。その点、貴方は何の先入観も感情にも支配されず、私の主に仕えてくれるでしょうから…」

じーっと見定めるかのような視線を無視し、未だ柳のドアだけを見る篠。
その瞳にいつかひとりだけを映す時が訪れた時が怖い。

「…柳くんではない事を願いますよ」

そう、いつか。
夜蔵篠の世界に色が生まれた先にいるのが柳でなければいい。
このタイプが一番怖いのだ。
色づいた世界に、我が主がいない事をひたすら祈るのだった。

「私は少し席を外します。その間…柳くんをよろしくお願い致します」

信頼などではない。
決して、信じてるわけでないが、風紀の人間で一番強いのは篠である事を理解している玄心はその場を離れた。
情もなければ思いれもない。
たが、定められた事ならば、その命すら捧げるであろう彼に経緯を。


2024.09.06

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