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柳は思った。
これは夢だ、夢なんだ、と。
そうじゃなければ納得出来ないし、理解に苦しむ。
そう思いながら、途方に暮れていれば、ふと鏡の横に掛けられた物に目がいく。
シルバーの縦線ストライプの入った上下真っ白な制服と紺のネクタイだ。
柳はぎょっとして、2度見した。
この現実離れした白い生地にシルバーのストライプ、まるでどこぞの物語から出てくる王子様が着るような代物。
恐る恐る近づいていき、柳は額に手を当てた。
(これ…嘘だろ?昔、姉ちゃんがハマってたBLゲームの制服じゃねぇか!思春期ながら恥ずかしい制服来たイケメン共からアプローチ受ける平凡受けがどうのこうの言うてたわ…)
チーンと音が鳴るんじゃないかと思う程に項垂れる。
柳の姉がBLにハマり、無理矢理プレイさせられたから覚えていた。
リアルな男の反応みたいから、とか言うてたが、あれは違うと嫌でもわかる。
実の弟をホモに仕立てあげて、男子高に入学させようとしたのだ。
まぁ、その目論見は姉の思惑とは異なった形で現実となったが、柳は男子高出身であり、どこをどう見てもこんな世界は存在しない事を告げたのだ。
そんな遠い昔の記憶が蘇って来て、乾いた笑いしか出なかった。
(それなら納得するわ。変に距離感近く、ナルシストみたいなキザな台詞。今時あり得ないと思っていたが、20年前以上のゲームが舞台なら、仕方ねぇよな…)
大きな溜息をついて、やたらとキラキラしてる制服に手を通す。
何から何まで上質良い生地で、さすがお坊ちゃま高校だなと感心する。
「いや、そうなるだろ」
制服を着て、鏡の前に立って、自分を見る。
本当に1ミクロンも似合ってないのだ。
平凡な高校生時代の自分と、王子様のみが許される高貴な(?)代物。
柳はあまりのアンバランスにドン引きしていた。
するとドアからノック音がし、永久の存在を完全に忘れていた事を思い出す。
慌てて開けて、謝罪しようとした柳だったが、ピタリと止まった。
「…は?…誰?」
ポカーンとした顔の柳に、相手の青年は困ったような表情を浮かべる。
「やはり覚えていないんだな…。小鳥遊の同級生の小林千尋だ」
190cm近くあろう巨体に、筋肉痛でいて、爽やかさを全面に出した好青年。
千尋が握手を求めるように手を出した。
「あ…!そうか!ごめんな、俺…階段から落ちて…」
ぎゅっと千尋の手を両手で握りしめて、記憶喪失じゃないが、記憶喪失の振りをしないと何の知識もない柳にとって好都合とばかりに利用する為に、必死に演技する。
やりすぎかなってくらい、ワタワタとした焦りを含み、千尋を見上げた。
「っ…!」
千尋の目が大きく見開き、どんどんと顔が真っ赤にそまる。
そして耳なんか熟れたトマトのような色をしているではないか。
「小林?」
柳が不思議そうに見つめれば、千尋の目がキョロキョロと挙動不審に動く。
口はパクパクと金魚のように動き、つい笑ってしまった。
「あははは!!何たよ、小林!!お前、本当面白いな!!」
人馴れしてないのだろう。
爽やかに見えたが、訂正しよう。
ピュアボーイだ、ピュアボーイ。
「っ…かわい…!!」
柳の笑顔の破壊力といったら、それはもう。
美形ばかりしかいないこの世界で、柳の存在は異質だろう。
普通、いや、平凡。
そんな身なりの少年は数える程しかおらず、その中でも群をぬいてナンバーワンだと言えよう。
そんな柳だからこそ、ここでは恋愛対象とは思われず、ここまで無事でいられたのだが。
毎日高級料理ばかり食べてる人間からしたら、一般料理を食べたくなると言うか。
語弊があるようだが、男子高ならではの世界において、柳の性格と言うか、言動はかなり珍しいものがある。
見た目は平凡だから、気付きにくく、関わらずに卒業していく中で、一度関わってしまったら、沼ると言うくらい普通なのだ。
金持ちでいて、英才教育ばかり詰め込まれ、幼少期からこの学園に詰め込まれた人間からしたら、新鮮でいて、側に置いておきたい存在なのだろう。
まぁ、それもごく一部なのたが。
「かわい?」
不思議そうに小首を傾げ、上目遣いで、キラキラしたように潤んだ瞳で見つめられて、千尋は平常心ではいられない。
今にも変な気を起こしてしまうんじゃないかと思う程に、閉じ込めて、触れて、抱きしめて、愛でたくなった。
千尋には幼少期から想いを寄せる人物がいるにもかかわらず、己の欲に負け、柳を独占して、厭らしい事をして、自分だけを見て欲しいなどと思うなんて、と。
何て浅ましいのかと、思春期の性欲の強さが絶望を呼んだ。
「…あ、…いや、すまんな…。何でもないんだ」
急に千尋のテンションが変わり、柳もそれ以上は聞けない雰囲気だと悟る。
(もしかしてこいつ、闇落ち系か?ピュアなのに闇…こわっ…)
柳はあまり関わらんとこ、と思うのであった。
2024.07.03
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