tori


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千尋から色々聞くに、どうやら今日いた永久は風紀委員長であり、心配して様子見に来てくれたらしいのだ。
案外、良い奴なんだな、なんて独り言を呟けば、千尋が不思議そうな顔をしていた。
本来ならば永久が事情聴取と言うか、事件なのか、事故なのか調べる為に、風紀室まで一緒に行く筈だったのだが、何故か千尋が呼ばれたとの事。
朝いちから毎日日課の学園内巡回していたらいしが、わざわざ戻って来る羽目になったらしい。

(あ…、多分、俺のキモ発言にキレたんだなぁ…。けど、マジあれは無いわぁ…)

「え!?風紀委員長なのか!?あれが!?」

柳の言葉に千尋がぎょっとする。

「小鳥遊!犬神委員長は見た目はあれだが、本当に素晴らしいお方なんだぞ!!俺はあの人を尊敬している。何より心根が漢なのだ」

何だか心酔している千尋をよそに、柳はこの学園は終わったと思っていた。

(あんなナル男が風紀?世も末だな…。やっぱさすが腐女子ゲームだわ…)

たった数時間しかいないにも関わらず、柳は何だか自分がやつれたように感じたのだった。


千尋と別れ、一人になってしまった。
さて、どうするか。
そう考えて、ドアの外から自分のクラスをしばらく眺める事にした。

(うわ…、想像以上にみんなイケメンばかりだし、女?みたいな奴もいんじゃん。ここがBL世界なの、頷けるわぁ…)

柳はドン引きし、入るのやめようかなって、今日は後遺症により欠席しよう。
何で今まで思わなかったのか。
連れてこられるまま、アホみたいに付いて行ったのか。
自分は本当に馬鹿なのか、と。
さて、帰るか、と部屋に戻る為、クルッと回った瞬間、ドンッと大きな物にぶつかった。

「ゔっ!?」

カエルが潰されたような声が自分から響き、地面にこんにちわすると思い、両目を閉じて痛みに備える。
だが、来る筈の痛みが無い。
柳は恐る恐る目を開けた。
するとそこには長くすらりとして、なのにちゃんと筋肉のついた引き締まった腕が柳を支えているではないか。

「?」

びっくりして、腕から床へと視線を向け、更には自分の背後に感じる人肌の温もりを見た。
だが、その人物は相当背が高いのだろう。
胸元しか見えず、紺のネクタイだ。
同学年である事がわかる。
それはそうか。
ここは1年の教室なのだから。
ぼーっとしながら、当たり前のようにその腕に寄りかかっていたが、ハッと我に返り、慌てて顔があるであろう上を見上げた。

「小鳥遊くん、大丈夫ですか?
お怪我はございませんか?」

腰に響く程の美声と、和を象徴させるようなお項の匂い。
更にはサラサラと流れるような黒髪のセンター分けがキラキラと光輝いていたのだった。

(おぉお!!?何だ何だ!!!?今度は和風美人かよ!!え、ここって髪キラキラすんのテンプレなん!?)

その瞬間、爆音かと思う程の黄色い悲鳴が教室内から響く。
そして廊下からも低く動揺したような声が聞こえて来たのだった。

「織田様ぁ!!そんな雑巾、汚いので早く捨てて下さい」
「いやぁぁぁあ!!!?」
「僕の織田様がぁぁぁ…っ!!!」

と次々と男子高に相応しくない、甲高い声が聞こえてきて、柳がドン引きする。
真っ青な顔で、目の前の男を見上げれば、超絶イケメン。

「あぁ…そんな、怯えた顔をして…。可哀想に…私とぶつかって、どこか痛めたのですね…」

切れ長の目は閉じ、申し訳なさそうに眉を下げる超絶和風美人。
どこかから琴の音色が聞こえそうな勢いである。
それにしてもお香の匂いがとても爽やかで、先程まで気分を害していた柳の気分が少しだけ和らぐのを感じた。

「保健室へ向かいましょう」

そう言うな否や、超絶和風美人の行動は早かった。
柳の背中と膝の後ろに手が回り、これが俗に言うお姫様抱っこたるものかと、何処か他人事のようにして目の前にいる美青年を見つめた。
きめ細やかな肌と涼しげな目元、いや、涼しげってよりも開いてさえいない目。

(え?これ、目を閉じてる?え、マジか?ずっと??どゆこと!?何が?意味わからん)

パニック状態の柳を聖母マリアのような神々しい微笑みで見守る美青年。
朝に出会ったナル男とは雲泥の差だなと、同じ笑顔なのに、こんなにも神から愛されるようなオーラは凄いとしか言いようがなかった。
とりあえず、ポカーンとしながら保健室まで美青年をガン見する柳だったのだ。

2024.07.03

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